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活薬のひと

 iPSに続きゲノム編集、CAR-Tと創薬関連の進展には目を見張るものがあります。今日は、敢えて、本稿の題に「超薬」との言葉を入れました。薬を超え(薬学会員の活躍の場が広がっている)、跳躍しよう、一歩踏み出そうとのメッセージです。その理由は、薬を母体としない組織で仕事をして来た私の経験から来ています。
 石油化学事業に従事することを夢みて私は旭化成に入社しましたが、入社3年目に医薬事業に進出するからとの理由で新設の医薬の研究部門に異動となり、更に、有機化学を専門としていたのに、人材がいないとの理由で生物系である薬理学を勉強するように言われました。今では乱暴な話ですが、当時は何も不思議に思わない雰囲気でした。以来、医薬品だけでなく医療機器事業を両方持つ事業体を立ち上げることに力を注いできました。その過程で、化学品、食品、化粧品、包装材、医療機器など様々の業種の方とも交流し、薬学の知識経験を活かせる場面に多く立ち会い、薬学会員の知識経験はもっと幅広いところで活かせると実感して来たからです。更に、会員を送り出す大学の経営についても新しい潮流を感じています。
 私がこの一年で経験した三つのトピックスを例として述べることで「超薬、跳躍」の想いの背景を理解して頂けたら幸いです。

 私が研究アドバイザーを委嘱されているCOINSの例を紹介します。COINSは片岡一則東大特任教授を研究統括とする文科省革新的イノベーション創出プログラムの採択拠点です。目指すのは、これまでSFの世界でしか語られることのなかった「体内を24時間自立巡回するウイルスサイズのスマートナノマシン」の開発です。そのために6つの革新的技術の開発アプローチを行っています。最近、脳内の神経細胞へ送達できる「BBB通過型ナノマシン」の開発に成功したと話題になっています。子供の時にみた映画「ミクロの決死圏」を思い出させる壮大な目標に向かって臨床や基礎の多彩なアカデミア研究者に加えて、素材系、精密電子系、食品系などの企業研究者が集っていることが特徴です。イノベーションを起こし医療の現状を劇的に改善しようと取り組んでいる集団の熱気に熱いものを感じています。勿論、興味も専門も異なるアカデミア研究者と厳しく損益責任を問われる企業の研究者を束ねてプロジェクトマネジメントを担うのは大変です。その点は、プロジェクト統括の木村廣道東大客員教授、研究統括の片岡教授が知恵を絞っています。一つ一つの研究テーマは創薬の枠組みに入りませんが、創薬に通じるものがあることは間違いありません。

 11月初旬に沖縄で開催された2017 US-Japan and Asia Medical Device Innovation Forumにパネリストとして招かれ参加してきました。昨年までは「日米」だったのですが、今年は沖縄で開催されることに合わせて、アジアとの広域連携を計ってアジアを加えたそうです。地図で見ると沖縄がアジアの中心に位置していることに驚きます。私は、企業買収の経験やオープンイノベーション例についてコメントしました。予想を超えて反響は大きく、医療機器分野でのイノベーションを志向している方々とのデスカッションが続きました。そして、研究者だけでなく、新製品を発掘する企業の責任者やスタートアップ企業を資金・経営面で支援する投資企業の方々が多いのに驚きました。翌日には、医療機器のスタートアップ企業と支援企業とのビジネスマッチングも開催されました。本フォーラムの対象はバラエティーに富んでいるので、AIを武器に考えるなど様々なアイデアの存在を再認識しました。薬学会員にも創薬、薬の領域だけでなく医療機器関連への積極的な展開が期待されていると思いました。

 薬学部ではありませんが最近触れた大学のダイナミックな試みを紹介します。東京にキャンパスがある昭和女子大学は昭和ボストン校を20年以上にわたって運営しています。キャンパスはボストンの中心部から車で15分ほどの小高い丘に位置しています。閑静な住宅街に囲まれた緑豊かな環境は、まさに勉学に最適です。私はそのボストン校の学外理事を依頼されています。写真で判るように、連結された10棟のウイングに分かれて建つ学生寮と大小の講義室には、ラウンジやカフェテリアも併設されています。また、運動場やプールなどのアクティビティー施設も整備されています。多くの学生は半年から一年の間、ボストン校にて英語で専門分野の授業を受けます。また、当然市民と自然に異文化交流の機会を得ることができます。まさしく、大学のグローバル化を実践していると思いました。「日本の200年―徳川時代から現代まで」の著者としても有名なアンドルー・ゴードンハーバード大学教授も学外理事として、どのような教育が学生にとって良いのか積極的に議論に参加しており、日本の教育体系に慣れている私にとっても勉強になります。更に、海外に出るだけでなく、昭和女子大学では、その東京キャンパスに米国テンプル大学を誘致し相互交流を図ることを計画しています。門外漢の私ですが、企業経営の経験者として、大学の新しい試みに貢献して行きたいと思っています。より良い教育を行いより優秀な学生を育てるための健全な競争がグローバルに始まっているようです。薬系大学・学部も避けて通れない状況ですが、今後の数十年を見据えた踏み出しに期待しています。