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活薬のひと

 身体障がい者であり、がんの罹患経験がある私は、常に薬と向き合う生活をしてきました。
 その私は、「患者を社会に活かす」活動として、特定非営利活動法人患者スピーカーバンクを2011年に立ち上げ、患者協働の医療を目指し活動を進めています。
 今回は、その思いや具体的な活動内容について、学会員のみなさまへ紹介します。

がんの経験

 「これは質(たち)の悪い腫瘍ですね。すぐに入院して治療をしましょう」
 私が大学3年生だった冬、医師からの精巣がんの告知でした。
 がんの自覚症状はありません。何か遠い世界の物語を聞かされているような感覚でした。
 生まれつき二分脊椎症による様々な疾患を抱え、入院生活も短くない私でしたが、当時の抗がん剤の治療は、遠い世界などと言っている場合ではなく、苦痛の連続でした。
 副作用による激しい吐き気。複数できる口内炎。逆流した胃液が口内炎の傷口をかすめ、口から溢れてくる。下痢にもなり、トイレの個室で感じていたことは、苦しさと悔しさとどうにもできない葛藤でした。涙はとめどなく流れ続け、お尻の冷えが我慢できなくなるまで何時間も篭っていました。

経験を活かす

 退院後、それらの経験を活かすべく、製薬企業に入社。製剤化に関わる研究所などに13年間従事しました。
 その間、知り合いの大学教員や患者会からの依頼を受けて、自分の経験や学生に期待することなどを話す機会が幾度かありました。同時に、私のように患者の立場から人前で話されている方の講演を聴く機会もありました。
 それらの活動の中で「患者の声は社会に活かせる」と確信しました。ただし、患者なら誰でもが社会に活かせる話ができるわけではなく、そこには「思い」や「技量」が必要だということも認識しました。

仲間との出会い

 2010年度に、私は医療に関わる方々の勉強会に参加しました。そこで、私と同じような思いを持つ仲間と出会い、患者の声を社会に活かすための研究に取り組みました。その会が終了となった2011年に、患者会代表、医師、新聞記者、医療業界団体職員ら、有志たちとNPO法人を立ち上げる決意をします。
 「患者の声を社会に役立てる組織をつくる」と。

組織の概要

 2012年7月、NPO法人として認可され、「NPO法人患者スピーカーバンク」の活動が始まります。
 2015年1月現在、会員数は約50名。東京都文京区に活動拠点を置き、関東を中心に活動しています。

活動の内容

 NPO法人患者スピーカーバンクは主に2つの事業に取り組んでいます。

(1)育成事業

活動風景

 希望する患者に対して研修プログラムを受講していただき「患者スピーカー」になる育成事業です。
 この研修は3段階に分かれています。
 まずは初級研修。そこでは、自分の経験の棚卸が重要な作業です。病気を通しての経験だけではなく、どうしてこの活動に参加したいのか、誰の役に立ちたいのかなど、活動する上での「思い」を充分に温めていただきます。自分の闘病経験を思い出し、泣き出す人もいるぐらいです。
少人数制で、一人ひとりの患者としての経験を引き出し、それをわかりやすくまとめ、ひとつの講演に組み立てる実習をします。

 続いて、中級研修。そこでは、実際に大学や研修会などで演者として必要となる技術などを学びます。大切なのは、自分が話したいことを話すのではなく、相手のニーズをしっかりと捉え、それに合わせて語りの内容を変えられることです。また、聴講者を飽きさせずに、より深く理解するためのワーク手法も学びます。
 さらに、自らが講演会等のイベントを企画、運営できるようになるのが上級研修です。患者であること、病気であることを活かして、自分が狙う方々に呼びかけ、自分たちがイベントを主催できることを目指しています。

 しかし、研修を修了してもすぐに講演などの現場に行けるとは限りません。また、ときどき自分の講演を他者からチェックしてほしいと考える場合もあります。
 そのために、ブラッシュアップ研修を行っています。この研修では、講演会などを想定し、模擬講演を行います。例えば、実際に製薬企業で講演する前に、聴講者は製薬企業社員だと想定して講演し、その立場になり切った聴講者から意見や感想を出してもらうことで、本番にはより的確な講演をすることが可能になります。このブラッシュアップ研修は一般公開していますので、御興味があればみなさまもぜひご参加ください。

(2)紹介事業

 患者の声を実際に聞いてみたいという企業、大学、学生団体などに、患者スピーカーを紹介するのが紹介事業です。最近では、製薬企業から社員研修の一環で講演とワークを一体にしたプログラムをご要望されるご依頼が急増しています。また、薬学部など医療系の大学や専門学校から学生向けに学業へのモチベーションを向上させる目的や、入学・卒業式などのイベントでのご依頼も増えています。
 主だった患者スピーカーは、ホームページで紹介し、依頼する方にもより具体的に患者スピーカーの技量を感じ取っていただけるようにしています。

 私たち患者の多くは、薬がなくては生きていけません。私自身も抗がん剤のおかげで、今日のいのちがあります。薬学の研究、発展に情熱を注がれているみなさまに心からお礼申し上げます。
 一方で、患者の視点でみると、時に疑問に思う薬があるのも事実です。みなさまの研究の先にいる最終ユーザー、すなわち患者はどういう気持ちで、あなたの研究成果を受け取るのでしょうか。時に患者に寄り添いながら、時に患者の気持ちに思いを馳せながら、そして時に実際に患者の声に耳を傾けながら、日々の研究に取り組んでほしいと私たちは願っています。

 病気というものは、マイナスのイメージがあると思います。確かに、病気や闘病は辛いものです。しかし、それを通して新しい価値観を手に入れたといったプラスの経験も、人それぞれにあると私たちは考えています。
 例えば、病気によって生活がどう変わってしまうのか不安を覚えたり、薬の副作用で辛かったり…。でも、周りの家族や友だちが励ましてくれて乗り越えることができた、薬剤師らのあたたかなケアに触れて心も癒された、仲間が出来て自分一人じゃないと思った・・・など、プラスの経験もたくさんあるものです。
 病気というマイナスから、それをも上回るプラスをともに感じていきたい。
みなさまと協働して、そのような社会を実現できたら嬉しく思います。