トップページ > 薬学と私 > キユーピー株式会社品質保証部海外チーム 高橋 真梨江氏 「安全・安心な食品の提供を通して、 人々の健康づくりに貢献していく」

薬学と私 第50回

 私が薬学部を選んだのは、人を助けられる医療に関わる仕事をしたいという想いからです。高校生の頃、テレビで医療ドラマやドキュメンタリーを見るうちに、人の命を救って社会に貢献している医療従事者に憧れを持ちました。当時は化学にも興味があったため、大学受験の際は医療も化学も勉強できる薬学部を目指しました。

 大学時代は恩師となる先生や友達に恵まれ、とても充実した6年間でした。肝心の学業については、入学当初に思い描いていたよりも大変で、実験や講義に追われる毎日でした。期末テストの前は、友達と励まし合い協力しながら大学受験さながら勉強に専念しました。薬学部の講義では暗記しなければならない内容が非常に多いのです。しかし、なぜこの事象が起こるのかといった根拠を明確にしないと覚えられない性格の私には、ただ暗記していくという作業は苦痛以外の何物でもありませんでした。例えば有機化学の反応式では電子の動きを一つ一つ書きながら理解して、反応機構を頭に入れていきました。このような経験を通して「考える」という基礎力が大学時代についたように思います。

 大学4年生までで、薬学の基礎的な内容は一通り学びました。そして5年生では医療現場での実習として、病院・薬局で実務実習を行いました。この実習が、仕事をするうえで大切なことを私に2つ教えてくれました。
 1つ目は「組織で仕事をするには、有機的な連携をはかることが不可欠である」ということです。私が実習をした附属の大学病院は、規模も大きく、一人の患者さんに対して、何人もの専門職が関わり治療にあたっていく多職種連携の姿をみました。各々の専門性を生かしながら、密なコミュニケーションをとることで治療が進んでいくのを目の当たりにし、協働の重要性を学びました。
 2つ目は「相手の立場にたって考えることが何よりも大事である」ということです。実習先の薬局は小規模だったため、服薬指導を行う機会を多く頂きました。患者さんとの会話から、限られた時間の中で生活環境や理解度を探り、一人一人に合った服薬指導をすることは難しく、時には落ち込むこともありました。しかし同時に、初対面の方とコミュニケーションを図りながら関係を築いていくことにやりがいと楽しさを感じました。そして何よりも、「この薬を使うときに不安や心配なことは何だろうか」と、患者さんの立場にたって考えることが大切なのだと叩き込まれました。

 就職活動開始時は薬局に勤めようと考えていました。しかし、様々な人のお話を伺ううちに、人々の健康づくりや海外に関わる仕事に就いてみたいという想いが強くなっていきました。きっかけは、大学4年生の春休みに経験したカナダ・バンクーバーでの語学留学や、長期休暇を利用して赴いた海外一人旅です。それらの経験を通じて、「多様な考え方をもつ海外の人と仕事をする」ことに憧れが芽生えていきました。薬学部を選んだのだから、そのような機会を掴むことは難しいだろうと思いましたが、「後悔はしたくない!」と、思い切って方向転換しました。「人々の健康に貢献しながら、多くの人と関わって新しいモノ、価値を生み出したいという想い、また、海外で働きたいという想い」を持って、食品企業での就職を目指しました。そして縁あって、キユーピー株式会社で働き始めました。

 入社後、研修が終わってからは品質保証部に配属になり、日々チャレンジングな仕事を与えて頂き、恵まれた環境で業務を行っています。
 現在の私の仕事内容は大きく分けて2つです。1つ目は、担当している東南アジア工場の品質向上支援です。お客様に安全で安心な商品をお届けできるよう、原材料の品質・製品(中身)の品質・製造現場の品質向上を目指して、様々な角度から品質管理を行っています。原材料の品質では、「良い商品は良い原料からしか生まれない」という考え方のもと、原料メーカーへ訪問・監査などを行います。製品(中身)の品質に関しては、商品開発の担当者と連携しながら配合のチェック等も行います。製造現場の品質に関しては、現場で働く従業員に向けて、一般衛生管理教育を行ったり、製造課と協力して改善活動やトラブルを未然に防止する活動を行ったりしています。
 2つ目は、各国拠点の現地スタッフ向けの研修です。弊社が大事にしているものづくりの心、品質へのこだわりを伝えるために、研修資料を作成し実際に講義も行っています。

 薬剤師の資格を直接活かせる仕事ではありませんが、理化学分析や微生物検査を行うこともあり、学生の時の実験・実習の経験がいきています。実験を行い、考察をたてて、報告書を書くときは学生時代に実験をしていて良かったと思います。
 配属当初は、自分の周りにいるのが経験豊富な先輩ばかりで、何も分からない自分に落ち込むこともありましたが、これを大きなチャンスと捉え、分からないことは勉強して、周りの先輩・上司に聞いて仕事を進められるようになりました。スーパーで実際に商品をみたりすると、この商品作りに関わっているのだと感じ、やりがいに繋がっています。

 この仕事を選んでよかったと思った瞬間は今までいくつかありましたが、マレーシアで一緒に働くスタッフから「ありがとう」と言われたときは本当に嬉しかったです。初めて出張に行ったときは何も分からず、何の役にも立てませんでしたが、担当する仕事をやり遂げた時に「ありがとう」と言われて、私を仲間と認めてくれたのだと感じることが出来ました。人との出会い、繋がりを大事にしようと改めて思いました。

 一つ一つの仕事の先に商品を手にしてくださるお客様がいます。お客様に安心して笑顔で召し上がっていただく商品を作り出すことが、私の仕事の大きな目的になります。お客様の命を預かっているということを忘れず、世界中の人々に高い品質の商品を届け、これからもより多くの人々の健康づくりに貢献していきたいと思います。

 今後ますます、薬学出身者が活躍する分野が広がっていくと思います。薬学を学びながら、自分がやりたいことをぜひ見つけてください。将来、別の分野に進んだとしても、大学で学んだ薬学の知識は無駄にはなりません。これからの皆様に期待しています。
 そして、「薬学」に関わる皆さまと今後どこかで共に仕事をすることが出来れば幸いです。