トップページ > 薬学と私 > 株式会社金井藤吉商店 代表取締役社長 金井藤雄 氏 「薬用植物栽培にかける思い」

薬学と私 第39回

 家業は、生薬を扱っていましたので、こどもの頃から生薬にふれあい育ってきました。しかし、明治薬科大学3年生の時に、祖父が亡くなり、私が引き継がないと、生活ができなかったので、大学生で社長になりました。昭和57年に明治薬科大学製薬学科を卒業後も、そのまま生薬の調達事業の活動を行い、その活動を通じて社会貢献活動を行っております。
 生薬は伝統的なものであり、調達には様々な方法がございます。 中国(各地)の市場からの調達や栽培による調達、野生生薬の収穫による調達などがございますが、中でも小生は栽培(生産者の顔が見える生薬の市場への供給)を軸に力を入れてまいりました。現在は薬事法改正がなされ新しく薬事法から「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」と長い名前になりました。昨今では薬事管理費用の増大に対応していかなければならない状況になっております。企業(原薬メーカー)薬剤師の育成も急務の課題であると認識しております。この中で価格競争に負けない生薬の栽培には高付加価値の創出がテーマになっております。特に国内においての栽培は家庭薬や漢方薬の魅力を引き上げることになることを期待しております。

 お正月は春を迎え屠蘇を飲み一年の平和・安泰と健康を家族で願うものです。
屠蘇は生薬を混ぜて作った屠蘇散をお酒200㏄とみりん40㏄に漬け込み元旦に家族そろっていただくものです。平安時代からの胃腸薬の処方が伝統的に使われております。
 薬用植物とは何でしょうか?
 素朴な疑問が浮かぶと思いますが、いまある数多くの医薬品の中、生薬を起源、または抽出して単離し出発物質として合成されてあるいは再結晶されて錠剤、散剤、顆粒剤、注射剤などの医療用医薬品に広く使用されていることからも薬用植物の重要性が示唆されると思います。例えば、モルヒネ、リン酸コデインなどはケシからの抽出で製造されており、タキソールは一位(いちい)の木の皮から抽出されて単離されさらに合成されております。これらの事例はほんの一部になります。
 それでは多くの方々が薬用植物と聞いて想像できるのは漢方薬ではないでしょうか?
 漢方薬、生薬、民間薬、家庭薬の定義をご説明しておきましょう。
 漢方薬は国として決めた処方に従った生薬を混合し製造されるものであります。
 生薬は薬用植物を収穫し洗浄、乾燥、あるいは修治を行ったものであります。
 修治とは農産物である薬用植物を収穫後、蒸す(例:紅参)、皮を取り去る(例:芍薬、桂皮等)、お酢につけてから水洗する(例:半夏)、ひげ根を焼き取り去る(例:黄連)、焼く(例:附子、炒甘草)、流水につけて加工する(例:葛根)、などのように収穫後の生薬として流通させるための加工工程になります。
 民間薬は民間伝承により、地域地方で植物を採集し、家庭で陰干しにして使用するものであります。
 家庭薬はどのご家庭にもある製剤で生薬が主剤のものから単品製剤まで多種多様にあります。
 生薬主剤のものは全部漢方薬ではございません。薬用植物は歴史と伝統の中で育まれてきた人間の知恵です。日本では様々な天然資源の活用がされておりますが、世界に目を向けるとアジア、ヨーロッパ、アフリカ、南米、カナダ、アメリカにおいても生薬の利用がされております。すなわち薬用植物がいかに重要かを裏づけすることであります。
 植物は通常光合成をおこなっております(一時代謝)これにより酸素が地球上に供給されております。一方で植物の二次代謝によって何が生まれてくるか? 皆さんが薬用植物学なり生薬学において勉強されたように二次代謝産物(酢酸ーマロン酸経路、シキミ酸経路、メバロン酸経路、アミノ酸経路)が生合成されることが知られております。薬用植物は高等な植物であり、エントロピーに逆行するパワーを持っております。これを人間が発見して利用しています。
 これらを基本要素として、現在では生薬を利用するすべての産業が求める薬用植物栽培について基本に触れてみたいと思います。
 薬用植物の鑑定ってどうやるのか?
最重要なことは薬用植物の鑑定は薬剤師にとって非常に大切な仕事であります。
今の薬事法では生薬供給業者の場合、製造管理者が生薬をこれは本物であると鑑定してから医薬品として流通させております。
 薬用植物は種は農産物の種であり、生えているときは農作物であり、収穫後も農作物ですが、いざ漢方薬などとして販売するとなると、栽培した農家は医薬品製造業でなければなりません。そこで生薬供給業者(医薬品製造業)が鑑定して、試験、GMPにのっとった製造を行って家庭薬、漢方薬、生薬、民間薬として流通させています。つまりここでは二つの省庁(農林水産省と厚生労働省)が関与しており、さらに希少動植物になると経済産業省(ワシントン条約)までが関与しております。
 このように生薬は独特な環境の中で栽培、流通されていることをご紹介いたします。
 生薬の栽培(薬用植物栽培)は農家が生薬の「鑑定された種」を使用して栽培を行うことが重要であり、また交配を避けなければなりません。一般の農作物では品種改良をして味が良いものや育てやすいもの病気に強いものを作っていますが、生薬は原種が重要であり、品種が変わってはいけません。医薬品として使用するということを重要に考えないといけないです。
 一例を紹介しますとたとえばシナモン(桂皮)はベトナムで栽培されている生薬の一つであり、実生の状態から約18年かかってやっと商品化されてきます。また朝鮮ニンジンは土づくりから始めると最低でも5年から6年間かかります。一方で皆さんのご家庭で食べているみかん(温州ミカン)は陳皮として皮を使用することができます。皆さんのご家庭で食べたみかんの皮を水道水で洗って陰干しにしておいてください。乾燥してパリパリになったら使用することができます。ただし医薬品としての鑑定をして試験してからでないと医薬品には使用できません。本格的なものでは日本では古くから栽培されてきたセンキュウやトウキがあります。北海道のセンキュウは結実しないことより株分けで育てます。トウキは種から一年目は苗を作り、二年目に苗を選別してから定植して育てます。土は腐葉土がたくさんあり、畑にはミミズが住んでいるような土が良いので野菜もおいしい野菜が育ちます。家庭や庭先栽培のような小規模なところであれば、野菜用の土で育てることができます。このように身近なものから生薬は様々な形で皆さんの生活に溶け込んでいます。

 生薬の生産は市場、野生生薬の収穫、栽培、食肉センターなどからの調達があります。個人的な想いとしては安心・安全な生薬の供給を目指しており、栽培し供給する体制の確立などを目指しております。生薬の種をまき、芽が出て、定植するときにはひとつの喜びがありますし、収穫のときにもうれしい思いがあります。ここから水洗、乾燥などの工程を経ていくとき仁も喜びがあります。一つ一つの喜びに感謝していく想いを伝えたいと思います。
 生薬にはひとつひとつイレギュラーがあり、個別対応が必要になります。
LOTの考え方もばらばらな傾向にあります。この中で国、地方自治体など行政の力も資金も必要になっており、法整備も一方で必要であると思います。生産者から消費者までの調和のとれたビジネスフロー、医療機関も含めた新たな活動が必要だと思っております。