日本薬学会からのお知らせ

「東日本大震災における薬系大学の被害状況および震災への取組に関する調査」に関する報告

 2011年3月11日に発生した東日本大震災により被害を受けられた方々および大学の関係者の皆様に心よりお見舞い申し上げます。また、被災地や福島第一原子力発電所の事故への対応にご尽力されている方々に深く敬意を表します。

 去る4月27日には、日本薬学会を含む日本の34学会が、「日本は科学の歩みを止めない~学会は学生・若手と共に希望ある日本の未来を築く~」との会長声明を発表し、復興に向けた活動が始まりました。この声明では、1)学生・若手研究者が勉学・研究の歩みを止めずに未来に希望を持つための徹底的支援を行う、2)被災した大学施設、大型科学研究施設の早期復旧復興および教育研究体制の確立支援を行う、3)国内および国際的な原発災害風評被害を無くすため海外学会とも協力して正確な情報発信を行う、という3つの提言が示されました。さらに、震災後の混乱が続く中で様々なボランティア活動が始まり、その一つとして3月末には厚生労働省、日本薬剤師会などの官民連携による医薬品、衛生用品sなどの救援物資の支援が行われ、薬学生、大学教員、地元(横浜)薬剤師会の薬剤師が多数参加しました。日本薬学会も、被災された会員ならびに関係の方々を支援するとともに、会員の方々が所属されている機関および被災地医療の復旧復興に向けた活動に取り組んでいます。


 日本薬学会では、薬学関連領域の被害と被災地支援の状況を把握することを目的として、全国の74薬系学部・大学に対して震災で被った被害の状況と震災への取り組みに関するアンケート調査を5月に実施(第1回調査)し、薬系大学の被害状況、薬学会に対する要望を調査するとともに、災害支援への取り組みを紹介していただきました。さらに、6月には復興支援の大学間連携推進を目的として、復興支援の意志、体制に関する追加調査(第2回調査)を行いました。短期間での回答を2回にわたってお願いしたにも関わらず、全大学から大変詳細に回答いただきましたことを感謝申し上げます。さらに、薬系大学が復興支援に向けて多岐にわたる活動を積極的に推進していることに敬意を表します。


【第1回調査の結果】

 第1回調査のアンケートの内容は資料1に示します。施設、設備、関係者の被害状況、教育の支障、研究の支障、薬学会への要望に関する質問を行うとともに、被災した学生の支援、被災地の医療支援活動、学生ボランティア活動、薬剤師ボランティア活動、薬剤師ボランティア活動、その他の支援活動について自由記載の形式で調査しました。

 被害の状況については資料2にまとめました。「東日本大震災において大学施設、設備、関係者の方が被害を受けましたか」の質問に対して、「甚大な被害を受けた」~「被害は受けなかった」の4段階での回答を設定しました。その結果、「甚大な被害を受けた」が4大学(東北大学、奥羽大学、国際医療福祉大学、愛知学院大学)、「ある程度の被害を受けた」が8大学(北海道医療大学、東北薬科大学、千葉大学、東邦大学、帝京大学、武蔵野大学、岩手医科大学、いわき明星大学)、「若干の被害を受けた」が11大学(青森大学、新潟薬科大学、東京大学、東京理科大学、慶応義塾大学、北里大学、日本大学、城西大学、城西国際大学、横浜薬科大学、兵庫医療大学)でした。アンケートに記載された被害としては、建物、大型機器を含む施設・設備の被害、関係者の人的被害、住居等の被害が挙げられます。甚大な被害を受けたと回答した大学には被災地から離れた大学も含まれていますが、学生の行方不明、実家の家屋全壊等が挙げられており、今回の震災の被害の大きさを物語るものです。教育への支障としては、卒業式、入学式、講義開始時期の延期等の教育日程の変更を余儀なくされたとの回答が11大学からありました。多くの大学で施設・設備の被害による講義・実習に支障をきたしており、第Ⅰ期実務実習ができなくなったとの回答もありました。施設、設備の損壊による研究の支障も深刻であり、4月には計画停電の影響を受けた大学も多く、さらに今後の電力供給不測への対応も急務となっています。日本薬学会への要望としては、1)教育・研究機器の提供、貸与、資金援助等の設備の復旧支援、2)学生、研究者の教育・研究の支援、就職活動支援、特別な配慮(薬剤師国家試験等)の要請、3)被災大学の研究費獲得の支援、4)原発の風評被害への対応、5)被災大学救済に向けた関連省庁への呼びかけ、などがありました。さらに重要な提案(東京大学)として、被災した大学への支援の意思のある大学を調査して一覧を示すことにより支援体制を整えることが要望されました。

 大学の災害支援への取り組みとしては、「被災した学生への支援」、「被災地への医療支援活動」、「学生ボランティア活動」、「薬剤師ボランティア活動」、「その他の支援活動」の5つの項目に分けて調査しました。その調査結果は資料3にまとめました。いずれの項目についても多くの大学から詳細に報告をいただきました。「被災した学生への支援」については47大学から紹介がありました。学費の免減、災害奨学金、見舞金などの経済的支援が多く、それ以外に住居の提供、専門家によるカウンセリング、被災地の大学生の受け入れ(被災地以外の大学)、募金活動の推進などがあります。被災地への医療支援活動については36大学から紹介がありました。災害派遣医療チーム(DMAT)、緊急被ばく医療チーム等の医療チームへの参加・支援活動、被災地の医療機関への教員・学生の派遣、ボランティア活動の支援等、多岐にわたる活動が行われています。「学生ボランティア活動」については、38大学から紹介がありました。医薬品・衛生用品、その他の支援物資の仕分け、荷造り作業への従事、被災地でのボランティア活動、義援金募金活動等が行われており、ボランティア活動の単位としての認定、ボランティア保険への加入、交通費等の支給などの大学からの学生ボランティア活動支援も積極的に行われています。「薬剤師ボランティア活動」については、24大学から紹介があり、薬剤師会等からの要請を受け大学として薬剤師を派遣したケースと個々の教員が対応したケースに分かれました。「その他の支援活動」としては、個人あるいは大学単位での義援金募金活動、救援物資支援、被災地学生の科目等履修生としての受け入れ、宿舎の提供、放射線測定活動支援、大学教員の被災地小・中学校への派遣(カウンセラー)等、多岐にわたる活動が42大学から紹介されました。なお、徳島文理大学からは被災地への医療支援活動について大変詳細な報告がありましたので、別に全文を紹介します(資料4)


【第2回調査の結果】

 第1回調査における回答の中で、復興支援に向けた大学間連携強化を目的として、被災した大学への支援の意志のある大学を調査して一覧を示すことにより支援体制を整えることが要望されました。第1回調査ではこの観点からの調査が不十分でしたので、第2回調査を実施しました。第2回調査のアンケートの内容は資料5に示します。被災した大学に対する支援の意志に関する質問を行うとともに、日本薬学会ホームページでの復興支援コーナー開設に関する調査を行いました。調査結果は資料6にまとめました。

 「東日本大震災において被災した薬系学部・大学に対して、要請があれば、大学あるいは学部として支援を行う意志をお持ちでしょうか」という質問に対して、「支援を行う意志があり、既に支援を行っている」の回答が6大学、「支援を行う意志があり、具体的に準備中である」が1大学、「支援を行う意志があり、要請があれば支援を行う」は39大学、「未定あるいは検討中である」は25大学、「支援を行う意志はない」と回答した1大学、「無回答」が2大学でした。このうち、「支援を行う意志はない」と「無回答」はいずれも被災地の大学からの回答であり、被災地のため対応、回答ができないことが理由になっています。

 「日本薬学会では、今回のアンケート調査をもとに、ホームページ上に復興支援コーナーを開設し、被災大学のニーズと支援大学の支援意志、支援内容等の情報を掲載して、大学間の連携強化を支援することを計画しています。このようなコーナーは必要と思われるでしょうか」という質問に対しては、「是非とも必要である」~「必要ない」の5段階での回答を設定しました。その結果、「是非とも必要である」が13大学、「必要である」が34大学、「あってもよい」が24校、「どちらとも言えない」が2大学、「必要ない」が0大学、「無回答」が1大学(被災地)でした。今後、日本薬学会ホームページに復興支援コーナーを開設するよう準備します。


 日本薬学会としては今回の調査でいただいたご意見、要望をもとに、被害を受けた大学、会員の復興支援に向けた活動を進めてまいります。震災で多くの大学が被害を受け、研究、教育にも多くの支障が出ています。薬学の研究、教育を滞らせることなく復旧復興するために基金を創設し、特に日本薬学会年会で研究発表を行う被災された学生の方々に対する経済的支援を行います。さらに、薬系大学、薬学会会員の復興への取り組みを支援することを目的として、支援の意思をもつ大学に関する情報収集と広報を行い、薬系大学間の連携体制強化に努めます。これらの活動に対しまして、会員の皆様からもご支援、ご協力をいただくとともに、ご意見を賜りますようお願いいたします。



日本薬学会副会頭 赤池昭紀





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