MEDCHEM NEWS Vol.34 No.4
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193天然物由来創薬図3  大鵬薬品の創薬基盤2014年〜脳腫瘍・脳転移創薬2017年〜RAS創薬2012年〜大鵬薬品の創薬基盤2-3.システイノミクス創薬パイプライン 2010年に入り、当社は共有結合型薬剤を目指した創薬基盤構築に注力した。当時、ほとんどの製薬企業において、共有結合型薬剤は高い有効性が期待できる一方で、非特異性や不安定性による毒性などのリスクを鑑みて、積極的な技術開発がなされていなかった。当社では、メディシナルケミストの総力を結集して、標的タンパク質の特定のシステインに特異的かつ効率的に結合する共有結合型阻害剤を創出する技術を確立し、さらにノウハウの蓄積により独自の強みにまで高めた。この創薬技術がシステイノミクス創薬であり、この技術を核とした創薬基盤からは、図4に示すいくつもの開発品が創製され、フチバチニブやzipalertinib(TAS6417)がFDAから画期的治療薬指定されるなど、グローバルで高い価値が認められる薬剤が創出されている。2-4.システイノミクス創薬の協業 RASは細胞増殖などに関わるタンパク質で、KRAS、NRAS、HRASの3種類があり、3種類の遺伝子のどれ核酸代謝創薬システイノミクス創薬1993年〜2010年〜キナーゼ標的創薬構造ベース創薬フラグメントベース創薬2009年〜2009年〜2-2.創薬基盤の全体像 長年にわたる代謝拮抗剤で培ったノウハウを基に、2009年から、がん細胞が増殖する際のシグナル伝達に必要なプロテインキナーゼを標的とした分子標的薬へと展開し、その創薬エンジンとなる創薬基盤を構築してきた。最初に構造ベース創薬(SBDD)とフラグメントベース創薬(FBDD)の基盤構築後、共有結合型薬剤の創製に着手した。これが後に当社創薬基盤の主軸となるシステイノミクス創薬(後述)に発展し、その応用により、新薬創製が難しい標的とされる変異型KRAS阻害薬の創製へとつながった。 さらに2017年からはメディカル・ニーズの高い脳腫瘍・脳転移の治療薬を目指し、脳内への薬物送達基盤のロンサーフはさらに、SUNLIGHT試験によりベバシズマブとの併用効果が2023年に確認され、現在では切除不能な大腸がん患者の3次治療として多くの国の治療ガイドラインに組み込まれている。 また、当社は、米国・欧州・アジア・オセアニア各国の関係会社と協働しながら、臨床試験の実施から承認申請までを自社で実施するためのグローバル体制を早くから構築し、世界16カ国に拠点を置くなど、販売網も拡大している。グローバル展開を見据えた準備を着実に進めてきたことにより、ロンサーフはグローバル自社創薬品として成長を遂げることができた。構築など、付加価値の高い化合物創製にも取り組んでいる。また、新たなモダリティへの挑戦として、長年蓄積した天然物由来のライブラリーなどの中分子領域への展開を進めており、それぞれの特徴を融合した独自の中分子戦略が動き始めている(図3)。

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