240写真1 第39回創薬セミナー集合写真 「第39回創薬セミナー」は、2024年7月10日(水)〜12日(金)の3日間にわたって開催された。今回は、これまで主に会場としてきたロイヤルホテル八ヶ岳(山梨県北杜市)がリブランディングに伴う改装により利用できなくなったため、場所を移しメルキュール長野松代リゾート&スパ(長野県長野市)にて開催された。創薬を志す総勢170名がこの地に集結し、熱い議論が繰り広げられた。 初日は、まず王子田彰夫委員長の「場所は変わっても創薬セミナーのコンセプト『聞いて、話して、学んで、創薬』は変わらない」「講演を通して勉強することに加え、積極的に質問したり、新しい人的ネットワークを産官学の垣根を越えて広げることで、充実した3日間になる」との旨のメッセージで幕を開けた。京都大学の大宮寛久先生は、独自の触媒・反応試薬によるラジカル反応制御についてご講演された。常識を覆すメタ位選択的フリーデル・クラフツ反応など、教科書を塗り替える成果に驚愕した。また、製薬企業との共同研究の経験を基に産学協働の重要性を説いた。イクトスの藤秀義先生は、Iktos社のAI創薬技術・事例を紹介しながら、AI創薬の将来展望を示された。AIが創薬研究者に取って代わることはなく、創薬研究者がAIを使いこなすことが重要であるとのメッセージに勇気づけられた。初日の最後は、特別講演として厚生労働省 医政局 医薬産業振興・医療情報企画課 総括調整官の須賀幹郎先生にご登壇いただいた。医薬品産業は日本経済を牽引する成長産業としての期待がある一方で、創薬力低下やドラッグ・ラグ/ロスが課題となっている。それらの解決に向けて、薬価制度と薬機法の改正や、産学がつながることができる創薬エコシステムの育成など、国の取り組みを丁寧に解説された。創薬に対する官の視点に触れる大変貴重な機会であった。その後のミキサー・談話会も大いに盛り上がり、密な交流が深夜まで続いた。 二日目は、中外製薬の白石拓也先生より、同社におけるタフターゲットを指向した低中分子創薬の事例をご講演いただいた。中分子ペプチド創薬をリードする同社は、いわゆる「rule of 5」の中分子版を定義するなど、惜しみなくノウハウを解説いただいた。アステラス製薬の吉成友博先生は、標的タンパク質分解誘導研究の基礎から同社におけるPROTAC研究までを丁寧に解説された。別途進めていたKRAS阻害剤研究との融合により、G12D変異KRASタンパク質分解誘導剤ASP3082を極めて迅速に創製した経緯には驚嘆した。量子科学技術研究開発機構の樋口真人先生は、認知症やパーキンソン病などの脳疾患を診断する画像バイオマーカーの産学連携による研究開発について講演された。画像化が困難であった標的に対して、高いコントラストで画像化に成功するなど、画像バイオマーカー研究の威力と大きな可能性を感じた。 昼食を挟み、本セミナーのハイライトである社長講演に移った。今回は、エーザイの内藤晴夫代表執行役CEOをお迎えし、「創薬精神について」という演題で熱くご講演いただいた。 内藤CEOは32年前の創薬セミナーでも社長講演をされており、異例の2回目となる。エーザイにおける創薬の歴史から、認知症研究の系譜、そして、世界初のアルツハイマー病疾患修飾薬レケンビの創薬ストーリーと今後の展望まで熱弁をふるわれた。演台から降り聴衆の間近まで寄って語りかける講演スタイルも強く印象に残った。製薬企業のトップの立場から長年創薬に携わった経験に基づく「現代創薬の成功の要諦」を惜しみなく伝授するとともに、「一度や二度の失敗では挫けてはいけない」と聴衆を激励された。 社長講演の後は、恒例の自由討論会・ポスターセッションに加え、新企画である創薬相談会が開催された。自由討論会では、10〜12名程度の10グループに分かれ、「創薬ターゲットとテーマ発掘」「次世代低分子創薬技術」「AI・インシリコ創薬技術」など7つのテーマの何れかについて、所属を超えて活発に意見交換・討論が行われた。ポスターセッションでは、アカデミアと企業研究者との間で熱い議論が繰り広げられ盛況であった。創薬相談会は、現在進めている創薬研究の課題や今後の方針、あるいはキャリアや進路など、創薬活動に関わるさまざまな話題について、自由な雰囲気の中で個別に意見交換を行い解決策や指針を得ることを目的に企画された。アカデミア研究者、企業研究者、大学院生から計27件の申し込みがあり、主に創薬セミナー委員・アドバイザーが相談員として対応した。それぞれ何かしら得るものがあったと期待している。 三日目は、まず大鵬薬品工業の伊藤智先生より、共有結合型FGFR阻害剤フチバチニブの創製についてご講演いただいた。共有結合型阻害剤の研究開発の基礎から、同社におけるシステイノミクス創薬基盤(共記事「第39回創薬セミナー」開催報告
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