MEDCHEM NEWS Vol.34 No.4
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大阪大学産業科学研究所 教授232MEDCHEM NEWS 34(4)232-232(2024) 「将来の夢は化学者です」なんて、子供の頃に言ったことはないし、考えたこともなかった。科学とは無縁の環境で育った私がなぜ、創薬を志す化学者となったのか、思い返してみた。 中高生時代の私にとって、化学は、先人が発見・発明した化学の歴史を暗記するだけの退屈な科目で好きになれなかった。では、なぜ、私が化学の世界に足を踏み入れたのかというと、きっかけは「実験」だった。私が通っていた、器具もまともに揃っていない片田舎の公立高校で、ある日、理学部化学科4年生の教育実習生が「簡単にできる化学反応をやってみない?」と提案してくれた。これが私にとって初めての化学実験である。サリチル酸をアセチル化してアセチルサリチル酸を合成するという、小さな1ステップの反応だったが、感受性豊かな高校生にとっては、大きな1ステップであった。自身で化合物をつくったという猛烈な感動と、あたりに漂った強烈な湿布臭は、35年経った今でも強く記憶に残っている(ちなみに、今でも私は、毎日のように湿布臭を漂わせている(五十肩))。同時に、「化学を使いこなせれば、何か新しいことができるかもしれない」という漠然とした期待と興奮も感じた。 2022年に、「創薬ニューフロンティア検討会」の特別チーム(東北大 石川稔さん、第一三共 山野井茂雄さん、大塚製薬 川野芳和さん)からの提案で、「メディシナルケミストリーシンポジウム(MCS)における高校生のポスター発表」が始まった。少子化が進む日本において、創薬研究の裾野を広げることを目的に始めた取り組みである。個人的には、上記の私の高校時代のような体験、あるいは、それ以上の経験を高校生に味わってほしいという想いがあり、この取り組みに参加した。 研究室の学生の出身高校である奈良女子大学附属中 等教育学校にお願いして、6名の高校生に参加してもらった。夏休み中の3日間、大学の研究室で実験を行 い、ポスター資料を作成し、発表申し込みを完了した。MCS2022では、オンラインのポスター発表であったが、多くの学生、研究者が高校生のポスター発表に訪 れ、熱い議論が交わされた。高校生にとっては、非日 常的で貴重な経験ができたのではないかと思う。翌年のMCS2023では、奈良女子大学附属に加え、西大和学園、岐阜高校(岐阜薬大 永澤秀子先生、平山祐先生のご指導の下、実験を行った)の高校生も参加し、対面でのポスター発表を経験した(課題であった高校生の旅費は、高校側が負担してくれた)。MCS2024でも、昨年と同様に、対面で高校生のポスター発表が行われる。 創薬研究の魅力を高校生に伝え、将来の創薬を担う研究者が生まれることを期待して、この取り組みに参加した。目を輝かせて実験し、緊張しながら発表する高校生の姿を見て、初心を思い出し、元気をもらった。今後、参加高校、大学の数が増え、この取り組みが全国に広がることを期待している。鈴木孝禎(すずき たかよし)1997年 東京大学大学院薬学系研究科修士課程修了同  年 日本たばこ産業株式会社入社2003年 名古屋市立大学大学院薬学研究科助手2005年 博士(薬学)取得(東京大学大学院薬学系研究科)2007年 名古屋市立大学大学院薬学研究科助教2007年 スクリプス研究所訪問研究員2009年 科学技術振興機構さきがけ研究者(兼任)2009年 名古屋市立大学大学院薬学研究科講師2011年 京都府立医科大学大学院医学研究科教授2019年 大阪大学産業科学研究所教授現在に至る AUTHOR Copyright © 2024 The Pharmaceutical Society of Japan鈴木孝禎Coffee Breakメディシナルケミストリーシンポジウム における高校生のポスター発表

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