5. 今後の展望231AUTHOR効果を評価した。この実験では臨床の条件を模倣し、血管での被曝量が全サンプルにおいて同じになるように、熱中性子照射時の血液中のホウ素濃度が10ppmとなるよう投与量を調整した。すなわち、T/Bが高いほど腫 瘍内ホウ素濃度が高くなる条件となる。本実験の結果、PHPMA-BSHと光照射を行っていないPHPMA-PL-BSHでは治療効果が限定的であったが、光照射したPHPMA-PL-BSHでは優れた抗腫瘍効果を得ることができた(図2I)。このように光により能動的に体内動態を制御し治療効果の向上につなげることに成功したのは、筆者らの知る限り本研究が最初である。筆者らは光による体内動態制御を光薬物動態学(optopharmacokinetics)と呼んでおり、BNCTの薬剤開発において、基礎・応用の両面において有用な技術になると考えている。 以上のように薬物の代謝に着目し「留める」DDSと 「除く」DDSの開発を行ってきた。日本のBNCTにおける競争優位性をさらに高いものにするためにも、実用化に向けた研究を加速させる予定であるが、特に重要になると考えているのは体内動態定量技術との融合である。例えば、BPAの場合は18Fで修飾した誘導体(18F-BPA)を用いたPETイメージングによる腫瘍・正常組織への集積量の定量が行われ、治療実施計画の策定に活用されている。BNCTにおいてはどのタイミングでどの程度熱中性子を照射するかが極めて重要になるため、このような定量技術をどのように取り入れていくかを考えることが必要である。PVA-BPAの場合は製造容易性の利点を活かし、18F-BPAの技術基盤を利用できると期待さ参考文献 1) R.F. Barth, et al., Cancer Commun., 44, 893‒909 (2024) 2) M. Sato, et al., Radiother. Oncol., 198, 110382 (2024) 3) T. Nomoto, et al., Sci. Adv., 6, eaaz1722 (2020) 4) T. Watanabe, et al., J. Radiat. Res., 64, 91‒98 (2023) 5) D. Tokura, et al., J. Control. Release, 371, 445‒454 (2024) 6) L.N.M. Nguyen, et al., Nat. Mater., 22, 1261‒1272 (2023)れる。PHPMA-PL-BSHにおいては、これに代わる技術が必要であり、筆者らはそれに向けた研究も進めているので、今後の筆者らの活動に注目していただきたい。謝辞 本研究実施にあたり多大な協力を賜ったステラファーマ株式会社および京都大学複合原子力科学研究所 鈴木実先生、田中浩基先生、櫻井良憲先生、高田卓志先生に深く感謝申し上げる。野本貴大(のもと たかひろ)2009年東京大学工学部卒、2014年東京大学大学院工学系研究科博士(工学)、同年東京工業大学資源化学研究所助教、2016年東京工業大学科学技術創成研究院助教。2023年より現職、PIとして研究室をスタート。ドラッグデリバリーを基盤としてBNCTや光線力学療法をはじめとした集学的治療技術の研究開発に従事。大学院生募集中。登倉大貴(とくら だいき)2021年大阪府立大学工学域卒、2023年東京工業大学生命理工学院ライフエンジニアリングコース修士(工学)、同年博士課程進学。東京大学大学院総合文化研究科特別研究学生。光科学を駆使した新たな医療技術創出に従事。プログラム医療機器 SaMD SaMD(Software as a Medical Device)は、IMDRF(International Medical Device Regulators Forum)において、単体で医療を目的として使用されることを意図したソフトウェアとして定義されている。国内では、プログラム医療機器は医薬品医療機器等法により、医療機器のうち、プログラム(電子計算機に対する指令であって、一の結果を得ることができるように組み合わせられたものをいう)、およびこれを記録した記憶媒体であるものと定義されている。プログラム医療機器SaMDは疾病の診断・治療等を目的に近年研究開発が加速しており、医療の質向上や医師の働き方改革推倉渕 瑶子(三菱総合研究所ヘルスケア事業本部)進等、多方面での期待が高まっている。 Copyright © 2024 The Pharmaceutical Society of JapanCopyright © 2024 The Pharmaceutical Society of Japan用語解説
元のページ ../index.html#47