MEDCHEM NEWS Vol.34 No.4
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〔SUMMARY〕 2020年に切除不能な局所進行または局所再発の頭頸部がんに対するホウ素中性子捕捉療法(BNCT)が世界に先駆け日本で保険適用され、日本発の世界に輸出可能な医療技術としてBNCTへの期待がますます高まっている。現在、BNCTの適用範囲拡大が求められており、そのためのホウ素薬剤の開発が極めて重要な課題となっている。筆者らは、ドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発において今まであまり注目されてこなかった薬剤の排出・代謝に着目することにより、従来とは異なるアプローチで腫瘍に選択的に薬物を送り届ける技術の開発を行ってきた。本稿では、その代表例であるポリビニルアルコール(PVA)製剤の開発状況と、最近開発した光薬物動態学(optopharmacokinetics)について紹介する。In 2020, boron neutron capture therapy (BNCT) for unresectable locally advanced or locally recurrent head and neck cancer was covered by insurance in Japan, ahead of other countries. BNCT has attracted increasing attention as a medical technology that can be exported from Japan to the world. Currently, there is a need to expand the scope of application of BNCT, and it is extremely important to develop boron drugs for this purpose. Here, we have developed technologies to selectively deliver drugs to tumors using a unique approach focusing on drug efflux and metabolism, which have not received much attention in development of conventional drug delivery systems (DDS). In this paper, we introduce the development status of a representative example, a polyvinyl alcohol formulation, as well as our recent research about optopharmacokinetics.1.BNCTの薬剤開発MEDCHEM NEWS 34(4)227-231(2024)227Keyword drug delivery, polymer-drug conjugate, boron neutron capture therapy野本貴大Takahiro Nomoto*1・登倉大貴Daiki Tokura*2 ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)は、熱中性子とホウ素原子(10B)の核反応により生じるα粒子とLi反跳核でがん細胞を殺傷する治療法である1)。α粒子とLi反跳核の飛程距離は細胞1個に相当する10μmであり、ホウ素薬剤を十分に取り込んだ細胞のみを殺傷できる。ただし、熱中性子は体内で散乱して腫瘍だけでなく正常組織にも分布するため、正常細胞へのダメージを最小限に抑えて治療効果を得るには、がん細胞に選択的にホウ素を送達することが求められる。この点において4-borono-L-phenylalanine(BPA)は、臨床で最も優れた成果を示してきた薬剤である。BPAは必須アミノ酸のフェニルアラニンと類似した構造をもち、低毒性でありながら、多くのがんで発現しているLAT1アミノ酸トランスポーターに認識されて細胞に取り込まれる特徴を有する。実際、静脈注射後にBPAはがんに対して選択的に集積することが可能であり、局所再発頭頸部がんに対して臨床第II相試験で71.4%という奏効率を示している。この優れた抗腫瘍効果から、2020年には「切除不能な局所進行または局所再発の頭頸部がん」に対するBPAを用いたBNCTが、世界に先駆け日本において保険適用された。さらに最近の臨床研究では「頭頸部に放射線照射歴のある下咽頭・喉頭がん」に対して75%の完全奏効率を達成しており、難治性腫瘍に対するBNCTの有用性が示されてきている2)。また、日本発の世界に輸出可能な医療技術としても注目されており、BNCTのさらなる適用範囲拡大が切望されている。 しかし、BPAには腫瘍内滞留性が必ずしも高くないという課題がある。すなわち、BPAは腫瘍細胞に効率的・選択的に集積できるが、熱中性子を照射する30〜60分の間に徐々に腫瘍内から排出されてしまい、一部の腫瘍に対して治療効果が低下してしまうことが知られ*1 東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 生命環境科学系 准教授 Associate Professor, Department of Life Sciences, Graduate School of Arts and *2 東京大学 大学院総合文化研究科 大学院特別研究学生 Sciences, the University of TokyoSpecial Research Student, Graduate School of Arts and Sciences, the University of TokyoMetabolism-controlled drug delivery systems for indication expansion of boron neutron capture therapyホウ素中性子捕捉療法の適用範囲拡大を目指した代謝制御型薬物送達システム

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