MEDCHEM NEWS Vol.34 No.4
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6. おわりに226AUTHORRIBOTACの標的としては、RNA結合分子が開発可能なヘアピン等の構造を形成するRNAであればよい。例えば、パーキンソン病に関わるαシヌクレインをコードするmRNA 5’末端、QSOX1のmRNA 5’末端、SARS-CoV-2のRNAゲノムのヘアピン構造等であり、それらに対するRIBOTACが開発され、細胞実験からそれぞれの標的RNAの生成を阻害することが確認されてい る7〜9)。また、mRNA上に疾患の原因となるGGGGCCという特定の塩基配列の繰り返し構造(r(G4C2)exp)を有する遺伝病のc9ALS/FTDに対しても、その治療効果につながりうるRIBOTACを開発した。得られた化合物を用いて患者由来の細胞から構築したリンパ球細胞(LCLs)、iPS細胞(iPSCs)、iPS細胞から分化させた脊髄ニューロン(iPSNs)に対して試験を実施したところ、病因として考えられるr(G4C2)やpoly(GP)の減少効果を確認した。また、cALS/FTDのフェノタイプを有するマウスモデルに対して実施したin vivo実験においても、poly(GP)の減少等の指標改善が見出された10)。 これまでに、筆者らが携わったRIBOTACの初期研究開発について紹介させていただいた。その後の研究として、DNA encoded library(DEL)を用いた新規リクルーターの探索や、タンパク質を標的とする既存の分子をRIBOTAC化することで分子活性のリプログラミングが可能であることも示されてきている11,12)。近年の創薬において、PROTACや抗体薬物複合体(ADC)のように“認識”と“生理活性”等の異なる機能を有する 2つ以上の分子をつなげた“キメラ分子”の開発が盛んになっており、すでにいくつもの薬剤が承認もしくは臨床試験に付されていることを考慮すると、RIBOTAC技術は黎明期であるが、今後もさらなる改良と創薬への応用が期待される。 最後に、本稿で紹介したRIBOTACの研究開発やそ参考文献 1) Rzuczek S.G., et al., Nat. Chem. Biol., 13, 188‒193 (2017) 2) Chandar S., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 104, 9585‒9590 (2007) 3) Velagapudi S.P., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 113, 5898‒ 5903 (2016) 4) Al-Ahmadi W., et al., Oncogene, 28, 1782‒1791 (2009) 5) Coatales M.G., Matsumoto Y., et al., J. Am. Chem. Soc., 140, 6741‒6744 (2018) 6) Coatales M.G., Aikawa H., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 7) Tong Y., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 121, e2306682120 (2024) 8) Tong Y., et al., J. Am. Chem. Soc., 144, 11620‒11625 (2022) 9) Haniff H.S., et al., ACS Cent. Sci., 6, 1713‒1721 (2020)10) Bush J.A., Aikawa H., et al., Sci. Trans. Med., 13, eabd5991 (2021) 11) Meyer S.M., et al., J. Am. Chem. Soc., 144, 21096‒21102 (2022)12) Zhang P., et al., J. Am. Chem. Soc., 143, 13044‒13055 (2021)の応用は、多くが米国スクリプス研究所フロリダ(現UF Scripps)のMatthew D. Disney先生の研究室メンバーと共に行われたものである。RIBOTACの初期研究開発に携われたことは、筆者らにとっても非常に意義深い研究経験であった。この場を借りて、Disney先生をはじめお世話になったすべての方々に御礼申し上げる。117, 2406‒2411 (2020)松本安正(まつもと やすまさ)2009年 京都大学大学院薬学研究科博士課程修了同 年 田辺三菱製薬株式会社入社創薬化学研究に従事2016年 米国Scripps研究所Disney研究室に留学2018年 帰任2024年より現職相川春夫(あいかわ はるお)2009年 東北大学大学院理学研究科博士課程修了同 年 東北大学国際高等研究教育機構助教2011年 東京医科歯科大学生体材料工学研究所特任助教2013年 大阪大学産業科学研究所特任助教2018年 米国Scripps研究所Disney研究室に留学2021年 東京大学大学院理学研究科博士研究員2022年より現職Copyright © 2024 The Pharmaceutical Society of Japan

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