MEDCHEM NEWS Vol.34 No.4
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5. 今後の分子糊分解薬4. PROTACsの開発219図3  サリドマイドおよび類縁体の分子機構サリドマイドや類縁体がcereblonに結合すると、結果としてその化合物の構造によりさまざまな基質の分解が達成される。ただしSALL4、p63、PLZFは催奇形性を起こしうるのでなるべく分解されない方が望ましい。最近は抗体と化合物を接続させたORM-6151のような、抗体により細胞をターゲットし、その上でGSPT1をターゲット細胞のみで分解して細胞死を誘導するような巧妙なものもある。ユビキチン化およびタンパク質分解多発性骨髄腫への治療効果骨髄異形成症候群(5q-)への治療効果急性白血病などさまざまながんへの治療効果催奇形性CRL4CRBNDDB1CereblonCul4Roc1Thalidomideおよび類縁体Len, Pom,IberdomideMezigdomideLenCC-885ORM-6151SALL4p63IkarosAiolosCK1αGSPT1PLZF末端のアミノ酸やその構造によりタンパク質寿命が変わりうるというのはC degron ruleと呼ばれる比較的最近提唱された概念にも一致しうる。この役割が実際にcereblonの機能におけるどのくらいの位置を示しているのかは今後の研究成果が待たれるが、ついにcereblonの基礎的な部分の理解もなされ始めたということになる。 サリドマイドおよび類縁体の研究から出された成果は、さまざまな波及効果をもたらしていた。例えばエーザイ株式会社が長年にわたり開発してきたスルホンアミド系薬剤(Indislamなど)の標的がDCAF15というCRL4の新規基質受容体であり、IndislamもMGDとして働くことがわかった11)。またさらに海外グループが独立にそれぞれ、CR8とHQ461という化合物がCDK12に結合するとDDB1との分子糊になり、結果としてCyclin Kを分解することを明らかにしている1)。つまりcereblon以外のMGDの開発も徐々に始まりつつあるということでもある。 CereblonやMGDの発見はそれなりに偶然性の高い産物であったともいえるが、一方で、Craig CrewsとRaymond Deshaiesが2001年に提唱したProteolysis Targeting Chimeras(PROTACs)は、最初から、壊したいタンパク質(Protein of Interest, POI)を分解するために設計された分子群である12)。構造としては、E3リガンド、リンカーとwarheadという3つの部分から成り立っている。E3リガンドにはE3ユビキチンリガーゼが結合し、warheadにはPOIが結合する。当初はSCFをE3ユビキチンリガーゼに用い、途中からVHL(von Hippel Lindau)、MDM2などに変えつつ多くの試行錯誤がなされてきた1)。しかしながら現在で臨床に使えそうなPROTACsは、2015年により初めて発表されたcereblonをターゲットとするPROTACsであった13)。現在、多数のタンパク質を標的にできる無数のPROTACsが開発されてきているが、その中でもcereblon-based PROTACsの臨床治験が進んできており、特にER(エストロゲン受容体)を標的としたARV- 471(図1)は第三相の臨床治験まで進んでいる14)。 今後かなりの期間、cereblonをターゲットとする創薬は精力的になされ、臨床的に認可される新たなMGDsやPROTACsは登場してくるものと思われる。2024年5月現在のBristol Myers Squibb社のパイプラインを見る限りにおいて、IberdomideおよびMezigdomide(図1,3)が、新規の多発性骨髄腫治療薬としての認可が期待できそうである1)。特にMezigdomideは極めて強力な骨髄腫への効果があり、レナリドミドの後続のブロックバスターになるのではないかとの期待もある15)。他の分子糊分解剤についてもHelios(IKZF2)を分解するNVP-DKY709(図1)がNovartis社により開発されている16)。また 前述のGSPT1の分子糊分解剤については、最近では、Antibody Drug Conjugate(ADC)とよばれる抗体に低分子化合物を接続させて治療薬として使う抗体薬物複合

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