(Indole-3-acetic acid)A.植物ホルモンであるオーキシンの構造。B.オーキシンの作用機序。TIR1、Skp1、Cullin 1、Roc1と複合体を形成し、オーキシンがTIR1に結合すると新たにAUX/IAAを認識できるようになり、ユビキチン化・分解する。C.分子糊。オーキシンはTIR1とAUX/IAAの間を糊として機能して相互作用が生じる場をつくっていた。(参考文献6のTan et al. Nature (2007)より転載)AOBCONHNHた6)。そこでその成果を公表したチームが、この結合について分子糊だと提唱したのである(図2C)6)。発見はこのようにして植物研究からであったが、ヒトにおいてもおそらく同様の現象があるだろうとは当然予想はされていた。3. 分子糊分解薬の開発OH218図2 分子糊の発見オーキシン結合オーキシンタンパク質分解植物の発達や成長などさまざまな生理的な反応OHAuxinSkp1Cul1Roc1TIR1AUX/IAATIR1TIR1Aux/IAATIR1Auxin 筆者と半田博士は2013年に東京工業大学から東京医科大学に移り、新たなサリドマイド類縁体の研究を開始した。新しいサリドマイド類縁体であるCC-885(図1)は、これまでのどのサリドマイドやIMiDsにもない活性があり、急性骨髄性白血病(Acute Myeloid Leukemia)の細胞に極めて優れた増殖抑制効果があり、さらには高濃度ではHeLa細胞やヒト胎児腎臓由来293T細胞などにも増殖抑制効果があった。そこで筆者は293T細胞からCC-885が分解誘導するcereblonのネオ基質を探索し、G1 to S phase transition 1(GSPT1)を発見した7)。GSPT1は別名eRF3α(eukaryotic releasing factor 3α)であり、タンパク質翻訳における終止コドンに結合する複合体のサブユニットとして機能する。GSPT1が消失すると終止コドンが認識されなくなるので、翻訳機構は破綻することになり、結果としてG1停止などの細胞増殖抑制が起こる。CC-885はサブナノモルオーダーでGSPT1を分解誘導し、それはcereblonに完全に依存していることもゲノム編集を用いた検証で明らかとなった。さらには当時のCelgene社と共同でX線結晶構造解析も行い、cereblonとCC-885とGSPT1の間の相互作用が、前述のオーキシンの場合とほぼ同様にCC-885が分子糊として働いて生じることが判明した。同じころスイスのグループが、cereblonとレナリドミド、CK1αの複合体構造を決定しており8)、その結果も薬剤が分子糊として働くことを示していた。このようにしてサリドマイドやその類縁体は、分子糊分解薬(molecular glue degrader, MGD)であることもわかったのである。本成果は筆者も共同筆頭著者として2016年にネイチャー誌に掲載された7)。その後、CC-885自体は強毒性だったために臨床開発には進められなかったが、後述するようにさまざまなGSPT1分解薬(GSPT1 degrader)の開発が始められていくのである。 その後、上述の構造生物学研究などの成果を基にしてcereblonのネオ基質の一つのクラスとしてCxxCG(xは任意のアミノ酸)といったstructural degron(分解配列)をもつC2H2ジンクフィンガーをもっている転写因子が基質になりえることなどが明らかとなり(Ikaros、Aiolosが含まれる)9)、またサリドマイド催奇形性のネオ基質としてSALL4、p63、PLZFが報告された(図3)1)。実際のサリドマイド催奇形性を呈する新生児たちは、四肢や耳、目、臓器など多岐にわたる多様な異常を有していることが多いが、それはこれら複数の催奇形性関連ネオ基質の分解の程度が個々によって異なりうるからではないかと考えられている。 ところでcereblon自体のもともとの機能は長く不明であったが、2022年にハーバード大学のグループが、ヘモグロビンβ鎖(HBB)などのタンパク質のC末端がアスパラギンやグルタミンの場合、一過的に環状イミド(cyclic imid)が形成されることがあるが、それをcereblonが認識し、分解していることを報告した10)。C
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