MEDCHEM NEWS Vol.34 No.4
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HNHNOOONONOONOONONOONOOOOONNNFNNNONOOONOONOONOOOONOONONNONNONH2. 植物ホルモン研究による分子糊の発見HONHNH217図1  本稿で登場するサリドマイドおよび類縁体NHOONHNH2NHNHNH2NHOOClHNNHThalidomideIberdomideLenalidomideMezigdomidePomalidomideARV-471CC-885NVP-DKY709PROTAC(H-PGDS)-7けた。この大量の細胞質画分のタンパク質抽出液を用いてサリドマイド固定化FGビーズによるアフィニティ精製を行ったところ、cereblon(CRBN)とdamaged DNA binding protein 1(DDB1)を結合因子として、2004年に半田研究室内で発見した。そして組換えタンパク質等を用いた厳密な生化学的実験を行うことにより、実際にはサリドマイドはcereblonに結合しており、さらにcereblonはDDB1と結合することによってCullin Ring Ligase 4(CRL4)と呼ばれるE3ユビキチンリガーゼを形成することが判明した。最終的に筆者が独自に作製したサリドマイド非結合型変異体を発現するゼブラフィッシュおよびニワトリが催奇形性に対して耐性になることを示し、上述した2010年にサリドマイドの主要な標的因子がcereblonであることをサイエンス誌に報告したのである2)。 その後、主に米国を中心にサリドマイドおよび類縁体の治療作用とcereblonとの関係性を検証する研究が多数の研究者らによって開始された。筆者と半田博士は、Celgene社(現Bristol Myers Squibb社)と産学連携研究を始めるようになった(最終的に2022年3月まで続いた)。まず米国Mayo Clinicのチームが、多発性骨髄腫細胞においてcereblonの発現がIMiDsの増殖抑制効果に必要であることを2011年に報告した1)。その後、2012年に筆者らとCelgeneで、IMiDsであるレナリドミド、ポマリドミドの両方にcereblonが結合することも明らかにした1)。そして2013年末にはハーバード大学の2つのグループにより、レナリドミドがcereblonに結合すると分解誘導される新たな基質(ネオ基質、neosubstrate)として、Ikaros(IKZF1)、Aiolos(IKZF3)が発見された3,4)。そして2015年には、レナリドミドはさらにCK1αを分解することも明らかとなった5)。これらの成果により、cereblonは結合するリガンドの形状によって認識するネオ基質が決まり、リガンドの開発によっては自在にネオ基質を分解できるのではないかという期待ももたれるようになった。このようにしてサリドマイドやその類縁体は、区分としてはタンパク質分解薬(protein degrader)であり、発見からほんの数年でcereblonをターゲットとした分解薬の開発が大いに始まる条件が整ったのである。 さて、ここで少し遡るのであるが、そもそも分子糊(molecular glue)という概念がいつ出てきたのかについて説明する。もともとこの概念は植物ホルモン研究で見出されてきたものである。植物ホルモンとは植物におけるさまざまな生体シグナルを調節する物質であり、植物における発生をはじめとするさまざまな生命現象に関与する。その中の一つであるオーキシン(Auxin)(図2A)が、植物のユビキチンリガーゼであるSCFのサブユニットであるTIR1に結合し、結果としてAUX/IAAというリプレッサーを分解して遺伝子発現をオンにすることが判明した(図2B)。さらにその構造基盤をX線結晶構造解析で調べてみたところ、あまり大きなアロステリック変化などは見られず、オーキシンがあたかも接着剤のようにTIR1とAUX/IAAを結び付けていることが判明し

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