MEDCHEM NEWS Vol.34 No.4
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〔SUMMARY〕1.サリドマイドおよび類縁体の基本的作用機構216MEDCHEM NEWS 34(4)216-221(2024)Keyword thalidomide, cereblon, molecular glue, ubiquitin, PROTACs*1 東京医科大学 医学部 伊藤拓水Takumi Ito*1 サリドマイド(Thalidomide)(図1)は、当初は鎮静剤として1950年代に旧西ドイツで開発された薬剤である1)。げっ歯類を用いた動物実験では特に明確な有害事象がなかったことから、日本を含む40以上の国々で販売された。しかし1960年代前半には深刻な催奇形性を有していることがMcBrideとLenezによる独立な報告によって判明したために、市場からの撤退を余儀なくされている。それでもサリドマイド自体はとても気を引く薬剤であることから、その後も研究が続けられた1)。そして2000年くらいまでに、B細胞の悪性腫瘍である多発性骨髄腫に優れた改善効果があることが判明した。多発性骨髄腫における使用はわが国においても厳格な統制の下、すでに認可されている1)。また2000年代前半までにバイオ企業であったセルジーン社(Celgene, 現在はBristol Myers Squibb社に買収)が、サリドマイドを基にしたさまざまな類縁体の開発を行っている。その中でも、レナリドミド(Lenalidomide)(図1)およびポマ 筆者と半田宏博士(東京工業大学 名誉教授)がサリドマイド標的因子であるセレブロン(cereblon, CRBN)を報告したのは2010年であるが、それから10年以上の時が流れ、筆者らのグループや国内外の研究者らの奮闘によりサリドマイドおよび類縁体の大方の作用機構の分子基盤が明らかになり、これらの薬剤は基本的には分子糊分解薬(Molecular Glue Degrader, MGD)であることが判明している。そして、現在、多数のサリドマイド類縁体が新薬候補として開発されており、いくつかは臨床治験にも到達している状況にある。本稿ではサリドマイドおよび類縁体の基本的な作用機構を解明経緯に多少ふれながら紹介するとともに、今後の分子糊分解薬の展開についての筆者の考えを述べていきたい。It was in 2010 when our group reported that cereblon (CRBN) is a primary target of thalidomide. More than a decade later, the molecular basis of the mechanism of action of most thalidomide and its analogs has been clarified through the efforts of our group and other researchers worldwide, and these drugs have been found to function as molecular glue degraders (MGDs). Many thalidomide analogs are currently being developed as new drug candidates for the treatment of various cancers including multiple myeloma, and several have even reached the stage of clinical trials. In this article, I introduce the basic mechanism of action of thalidomide and its analogs, with some background information on how they were elucidated, and my thoughts on the future development of molecular glue degraders.リドミド(Pomalidomide)(図1)は、優れた多発性骨髄腫細胞の増殖抑制効果を所持していることがわかった。またレナリドミドは、骨髄異形成症候群5q-への改善効果も判明するに至った。これらの薬剤は免疫調節薬(Immunomodulatory imid drugs, IMiDs)と総称される1)。今では述べてきた疾患への治療はいずれも臨床的に認可されている状況にある。しかしながら、2010年まではサリドマイドもその類縁体もその作用機構は完全に不明であった1)。 東京工業大学の半田宏博士は、もともと転写研究において大きな成果を出していた分子生物学者であったが、その一方で、生理活性物質に結合するターゲット分子を効率的に精製するためのアフィニティ担体の開発を行っていた。そして最終的に完成されたのがFerrite Glycidylmethacrylate(FG)ビーズであり、半田博士はこのFGビーズを用いることによって多数の薬剤などの標的因子の単離に成功していた。そんな折、半田研究室の大学院生であった筆者が挑戦したのがFGビーズを用いたサリドマイド標的因子の単離であった。半田研究室の転写研究において子宮頸がん由来HeLa細胞の核抽出液が大量に使用されていたが、筆者は残されていた細胞質画分を転写研究グループの学生・研究者から譲りうSchool of Medicine, Tokyo Medical UniversityMolecular glue degraders derived from thalidomide and its derivativesサリドマイドおよび類縁体の分子糊分解薬

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