MEDCHEM NEWS Vol.34 No.4
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4. RaPPIDSTMの適用事例3. 標的タンパク質分解誘導剤探索プラット213ゼバインダーを取得して標的タンパク質分解誘導剤を合成しても分解活性を一切示さないといったケースも知られており、時間とコストに対してリスクが非常に大きいといった問題が残されている。 当社では、標的タンパク質分解誘導剤の課題を解決し効率的な医薬品候補化合物の探索を行うべく、創薬プラットフォームRaPPIDSTMを開発し改良を重ねてきた。本プラットフォームの最大の特徴は生産性の高さにある。標的タンパク質分解誘導剤を最大で週に1500化合物を合成することができ、さらにそれらの分解活性評価のためにPOIごとに適切なハイスループットアッセイを選択することで、1週間以内に評価まで完了することができる。この高生産性を基にPOIに最適なE3リガーゼの同定、新規E3リガーゼバインダーの取得、迅速な化合物最適化をシームレスに行うことができる。 当社では、新規E3リガーゼバインダーの探索において、表現型優先(Phenotypic-first)アプローチを採用している。すなわち、週に1500化合物を合成できる高生産性を基に多検体を合成し、POIの分解活性を指標に化合物を選択する手法である。長年の経験で培ったノウハウを用いて取り揃えたE3リガーゼに結合が期待される部分構造(フラグメント)を多数保有しており、これらの組み合わせで生成する構造は100万通りを超えている。これらを用いてPOIに連結したBivalent型の化合物を合成し、その中からPOIを分解する標的タンパク質分解誘導剤を見出すことができる。得られた標的タンパク質分解誘導剤を用いて分解に寄与するE3リガーゼを特定し、さらに、POIおよびリンカーも含めた化合物最適化検討により医薬品候補化合物を早期に創出することができる。 さらに、本アプローチによって取得した新規E3リガーゼバインダーは、POIバインダーと1ステップで連結できるReady-to-Conjugateプローブ(R2Cプローブ)として保有しており、取得済みのE3リガーゼバインダーを用いた化合物探索にも適用できる体制を取っている。当社のR2Cプローブは、現在、VHL、CRBNなどの既存のE3リガーゼを用いたもののほか、既存のものとは異なる構造およびPharmacophoreを有するXIAP11)、独自に取得したLigase A、Ligase B(共にリガーゼ名は非公表)を用いたものなどを有している。さらに各E3リガーゼに対して複数のケモタイプを準備することで、ヒット率(Hit rate)の向上を図っている。現在、本Phenotypic-firstアプローチによる分解実績を基にE3リガーゼの特定作業中のものを複数有しており、E3リガーゼのラインナップが順次拡大していくものと期待している。 IRAK-M(Interleukin-1 Receptor-Associated Kinase 3, IRAK-3)は、MyD88依存的TLR、IL1Rパスウェイを負に制御する因子として知られており、骨髄系細胞に特異的に発現して自然免疫の過剰な活性化を抑制する働きを有している。IRAK-Mはがん細胞の増殖を支持する腫瘍関連マクロファージをはじめとした単球系免疫抑制細胞において発現が上昇しており12)、IRAK-M欠損マウスを用いた同種移植マウスモデルでは腫瘍増殖が抑制されることが報告されている12,13)。これらの報告から、IRAK-Mは免疫抑制に関わる骨髄系細胞における免疫抑制解除を作用機序としたがん免疫治療の標的候補として有望である。しかしながら、酵素活性を有さないpseudokinaseであることから、従来の低分子化合物による機能制御は難しくUndruggable Targetとされてきた。そのため当社が保有する種々のIRAK-Mバインダー単体ではいずれも期待する作用を示さなかったが、当社のXIAPバインダーを組み合わせて標的タンパク質分解誘導剤とすることで、IRAK-Mの分解を誘導しがん免疫による抗がん作用を示した。得られたリード化合物から多検体合成と評価を繰り返して、約9ヵ月で医薬品候補化合物FIM-001を創出するに至った14)。FIM-001は免疫チェックポイント阻害剤に非感受性のモデルとして知られている肺がん細胞(LLC細胞)を用いた同種腫瘍移植モデルを用いたマウスin vivo試験において抗腫瘍効果を示した(図2)。本化合物は非臨床試験においてGLP準拠の安全性試験を終了し、臨床試験の準備中である。 IRAK-Mの分解は自然免疫の活性化による安全性のリスクが考えられたため、投薬量を厳格にコントロールする目的で注射剤を志向して開発してきた。しかしながら、経口投与のニーズが非常に高いことに加え、安全性試験の結果からも重篤な安全性の懸念が確認されなかったことから、経口投与を志向したバックアップ化合物のフォームRaPPIDSTM

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