MEDCHEM NEWS Vol.34 No.4
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4. 次世代低分子創薬と日本の化学210AUTHORに対しては、サクセッサー化合物の検討も並行して進めており、すでにASP4396の臨床試験が米国にて進行中である。さらに、複数のKRAS変異体を分解可能なpan-KRAS分解誘導剤の開発も進めており、複数の候補化合物が前臨床段階にある。今後は、引き続きKRASを標的としたタンパク質分解誘導剤に取り組みながら、KRAS以外のがん関連標的、さらにはがん以外の疾患標的に本技術の適用を広げていきたいと考えている。 わが国には、偉大な有機化学者による世界に誇るべき業績とそれを基盤とする人的・研究文化的資産がある。また、低分子創薬の発展の中でわが国が果たしてきた貢献も特筆すべきものがある。今後、低分子創薬の主戦場になると考えられる標的タンパク質分解誘導や三者複合体の形成を経由する類縁創薬技術においても、日本の化学の力が活躍する余地は大きい。これは、次世代低分子創薬が、日本の化学者が得意とする高度な有機化合物合成力と従来型低分子の範疇を超える緻密な薬剤デザイン力を必要とするためである。低分子創薬の新しいパラダイムシフトが起こる中で、①新薬の材料となる独自性の高いバインダーの取得、②それらをつなげて1つの薬剤として完成させる独創的な薬剤デザイン、そして、③三者複合体を経由する科学の応用にイノベーションの機会が存在する。 2023年、Nature誌に、「Japanese research is no longer world class─here’s why」という寄稿が掲載された。これまでの日本の貢献や、今後のイノベーションに対する潜在的な可能性を考えると、このような主張が、世界で信頼される科学雑誌を通じて発信されることに衝撃を覚える。現状を打破するには、真に影響力のある業績に加え、グローバル環境における発信力の強化が急務で ある。 若い研究者は、高い志をもって、世界に挑戦していただきたい。組織のリーダーは、瑞々しい才能を生かす非階層的な組織の構築と次世代リーダーの育成に力を注がなければならない。低分子創薬でパラダイムシフトが起こっている今、我々日本の化学の価値を力強く世界に示す絶好の機会が訪れている。参考文献 1) Garami M. (ed), Molecular targets of CNS tumors. In Tech, (2011) 2) Santos R., et al., Nat. Rev. Drug Discov., 16, 19 (2017) 3) Békés M., et al., Nat. Rev. Drug Discov., 21, 181‒200 (2022) 4) Hofmann M.H., Cancer Discov., 12, 924‒937 (2022) 5) American Cancer Society. Cancer Facts & Figures (2020)早川昌彦(はやかわ まさひこ)1994年、名古屋大学理学部化学科修了後、アステラス製薬(旧山之内製薬)に入社。メディシナルケミストとして低分子創薬を担当し、上市品、臨床開発品の創出に貢献。2015年機能分子研究室長、2019年ベンチャーユニット長、2022年プロテインデグレーダー部門長、2024年4月より現職。博士(薬学)フック効果 過剰濃度の薬物投与で生物活性が減弱することを、釣り針の形に例えてフック効果(hook effect)と呼ぶ。例えば酵素に対する阻害薬の場合、薬物濃度依存的に酵素阻害活性が強くなり、ある濃度を超えると阻害活性は頭打ちとなり、用量反応曲線はシグモイド曲線を示す。一方PROTACは、PROTAC濃度依存的に標的タンパク質分解活性が強くなり、過剰濃度で分解活性が減弱する用量反応曲線を示し、つまりフック効果を示す場合がある。PROTACがフック効果を示す理由として、PROTAC濃度依存的にユビキチンリガーゼ-PROTAC-標的タンパク質の三者複合体が形成され、標的タンパク質分解活性が強くなるが、PROTACの濃度が過剰になると、三者複合体よりも二者体複合体の形成が優先さ石川 稔(東北大学大学院生命科学研究科)れるためと説明されている。 Copyright © 2024 The Pharmaceutical Society of JapanCopyright © 2024 The Pharmaceutical Society of Japan用語解説

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