MEDCHEM NEWS Vol.34 No.4
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208図2  KRAS pathwayRTK: Receptor tyrosine kinase; SHP2: SH2 containing protein tyrosine phosphatase-2; SOS: Son of sevenless; GTP: Guanosine-5’-triphosphate; GDP: Guanosine-5’-triphosphate; KRAS: Kirsten rat sarcoma virus; GAP: GTPase-activating protein; MAPK: Mitogen-activated protein kinase; RAF: Rapidly accelerated fibrosarcoma; MEK: Mitogen-activated protein kinase kinase; ERK: Extracellular signal-regulated kinase; PI3K: Phosphoinositide 3-kinase; AKT: protein kinase B; mTOR: Mammalian target of rapamycinKRAS-GDPMAPK pathwayGTPSOSOFFGAPPPSHP2GDPONRAFPI3KMEKAKTERKmTORRTKKRAS-GTPPI3K pathwayCell Growthに強力な作用で結合して機能性のポケットをふさいでおり、従来の低分子創薬を行うことが不可能であったことが主な要因である。また、KRASは分子量が21,000程度と小さく、タンパク質に薬剤が強く結合するためのその他のポケットも存在しない。そのような状況下、2013年、Shokatらのグループが、KRAS G12C変異特異的に結合する低分子の創出に成功したことで、KRAS変異体に対する創薬が一気に加速した。この発明は、KRAS G12C変異で発生したN末端から12番目のシステインに結合する低分子阻害剤を探索するという画期的な着想が基盤となっている。その後の研究の発展を経て、Amgen社、Mirati社がそれぞれ開発したKRAS G12C変異阻害剤が上市された。一方、G12Dを含む他のKRAS変異体にはG12Cのシステイン部分にあるような反応性の高い置換基はなく、KRASの創薬は依然として困難を極めていた。 筆者らは、2014年より進めていたKRAS G12D変異に対する創薬研究で、独自の阻害剤の創出に成功していたものの、in vitro、in vivo双方で強力にG12D変異がん細胞の増殖を抑制するには至っていなかった。しかし2020年、アステラス製薬の才能あるメディシナルケミストの登場により、停滞していた状況が一変する。筆者らがKRAS変異体に対する阻害剤の研究をすすめる傍ら、社内では標的タンパク質分解誘導剤に関する基盤技術研究が進められていた。ちょうどそのとき、若き研究者の自由な着想によりこの2つの独立した研究は運命的な融合を遂げ、KRAS G12D変異体の分解を誘導する化合物であるASP3082創成への道が切り拓かれた。 ASP3082の創成は、KRAS G12D変異体とユビキチンリガーゼとの三者複合体の形成モデルをベースに効率的に実施された。これは、メディシナルケミストである吉成友博博士の卓越した薬剤デザイン力とコンピュータ・モデリングを統合した独自のアイデアによるものであり、通常、低分子創薬では最適化に複数年を要するところを、わずか5ヵ月でASP3082を創出することに成功している。実際には、KRAS G12D変異体の分解誘導剤として、ヒット化合物から最適化研究を開始して、38番目に合成された化合物がASP3082である。通常、最適化プロセスには数百から千以上の化合物の合成が必要なことを考えると、非常に効率的に、少ないステップで新薬候補の創出に至っている(図3)。 この独自の三者複合体モデルに基づき、最初にデザイン・合成された分解誘導剤は、最適化されていない化合物としては驚くべき強度のKRAS分解誘導活性を示し

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