〔SUMMARY〕1.低分子創薬のパラダイムシフト2. 標的タンパク質分解誘導の利点206MEDCHEM NEWS 34(4)206-210(2024)Keyword Targeted Protein Degradation, Kras G12D, Engineered Small Molecules, Ternary Complex, Innovative Organization *1 アステラス製薬株式会社 エンジニアードスモールモレキュールズ長/シニ早川昌彦Masahiko Hayakawa*1 標的とすることが困難なタンパク質に対する創薬を実現する手段として、標的タンパク質分解誘導が注目を集めている。疾患関連タンパク質のうち、従来の低分子化合物の標的として適しているのは約20%であり、残りの約80%は低分子化合物に適さない標的とされる1,2)。標的タンパク質分解誘導は、従来の低分子創薬では未到達であった疾患関連タンパク質を標的とし、新たな創薬の道を切り開く可能性がある。 従来型の低分子薬は、標的タンパク質の機能性ポケットと薬剤の強固な相互作用をベースにしている。いわゆる薬剤と標的タンパク質の「鍵と鍵穴」に例えられる原理で効果を発現する。すなわち、従来の低分子薬が作用を発揮するためには、標的タンパク質に天然のリガンドが利用している機能性結合部位のような、低分子が深くはまり込むことができるポケットがなければならない。このような条件を満たすタンパク質はむしろ限られており、従来型の低分子創薬に適した標的は限定されているといえる。 一方、標的タンパク質分解誘導剤にはそのような深い機能性ポケットは不要である。標的タンパク質分解誘導剤は、標的タンパク質と基質タンパク質をユビキチン化 鍵と鍵穴から触媒の働きへ。標的タンパク質分解誘導(TPD)は、低分子創薬に大きな変革をもたらしている。アステラスは、この技術の最先端に立ち、がん治療の歴史的な難題であるKRAS G12D変異タンパク質を分解する開発品の創出に初めて成功した。さらに、これまで築き上げた技術的優位性を基盤に、がんおよび他疾患に対するさらなる展開を推進している。Targeted protein degradation (TPD) is revolutionizing the landscape of small molecule drug discovery. At the forefront of this innovation, Astellas has successfully created the first in class KRAS G12D degrader, addressing a historical challenge in oncology. The research is expanding into other undruggable targets in oncology and beyond.するユビキチンリガーゼへの親和力を足掛かりとして、それら2つのタンパク質を近接化させ、標的タンパク質、標的タンパク質分解誘導剤およびユビキチンリガーゼからなる三者複合体を形成する。近接したユビキチンリガーゼにより、標的タンパク質はポリユビキチン化され、そのポリユビキチンを認識するプロテアソームによって標的タンパク質は分解される(図1)3)。 このように、標的タンパク質分解誘導は、水素結合を主体とする「弱い結合」をベースにした2つのタンパク質と薬剤分子が離脱着する科学であり、薬剤物質は触媒として機能し、標的タンパク質のユビキチン化反応を促進する。この三者複合体形成(図1)においては、タンパク質同士のタンパク質-タンパク質間相互作用による安定化寄与があり、薬剤とタンパク質の間には必ずしも強い相互作用を必要としない。これは、低分子創薬のパラダイムシフトともいえる変化である。分子デザインは、ひたすらに標的タンパク質に対する強い結合を目指す実直な科学から、2つのタンパク質間の弱い結合を調整する美しい科学へと変貌する。 標的タンパク質分解誘導剤の最大の魅力は、従来の低分子薬では狙えなかったタンパク質に対する創薬を可能とする点にある。加えて、本創薬技術には、薬効、標的選択性の面で、他の創薬技術に対する優位性をもっていアバイスプレジデントSenior Vice President, Head of Engineered Small Molecules, Astellas Pharma Inc.Targeted Protein Degradation: Discovery of novel KRAS G12D degraders標的タンパク質分解誘導:KRAS G12D分解薬の創出
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