MEDCHEM NEWS Vol.34 No.4
20/60

5. 新しいモダリティとして注目を浴びる分解204degradation)が報告された12)。本分子は、プロテアソームに標的タンパク質を直接近接させる点に特徴を有する。 ユビキチン-プロテアソーム系以外のタンパク質分解経路を利用した標的タンパク質分解も報告されている。オートファジーを誘導する二機能性分子として、CMA(chaperone mediated autophagy)誘導分解薬、AUTAC13)、ATTEC(autophagosome- tethering compound)、AUTOTACが報告されている14)。どの二機能性分子も、オートファジーに関連するタンパク質に結合することで、標的タンパク質のオートファジー分解を誘導する。そしてCMA誘導分解薬、ATTEC、AUTOTACは神経変性タンパク質を分解できることが、またAUTACはタンパク質以外にミトコンドリアも、ATTECはミトコンドリアや液滴も分解誘導できることが示された。他にも、エンドサイトーシスによって細胞膜タンパク質や細胞外の分泌タンパク質を分解するLYTACも報告された14)。一方、細菌やミトコンドリアには、タンパク質分解機構ユビキチン-プロテアソーム系やオートファジーが存在しないため、上記分解創薬が適用できない。この課題に対して、細菌やミトコンドリアに発現するセリンプロテアーゼであるcaseinolytic protease P(ClpP)複合体を利用し、ClpC(ClpP複合体の構成成分)リガンドと標的タンパク質リガンドをリンカーで連結した二機能性分子で細菌タンパク質を分解するBacPROTAC15)と、ClpP活性化薬と標的タンパク質をリンカーで連結した二機能性分子MtPTACがミトコンドリアタンパク質を分解すること16,17)が、それぞれ報告された。さらに2018年、リボヌクレアーゼ(RNase)に結合するオリゴヌクレオチドと、RNAに結合する化合物をリンカーで連結した二機能性分子RIBOTACが、標的とするRNAを分解することが報告され18)、分解創薬はタンパク質以外の生体分子へ拡張された。 PROTACの課題として、先述のとおり、二機能性分子ゆえに分子量が大きくなる宿命があげられる。これを解決する手段として、分子糊分解薬が注目されている。分子糊分解薬は、タンパク質分解に関わるタンパク質と標的タンパク質の相互作用を誘導する分子で、2種のタンパク質が共存しない条件では少なくともどちらかのタンパク質に結合できず、また分子構造中にリンカーを有していない。2010年に東京工業大学の半田宏博士らは、サリドマイドがユビキチンリガーゼであるセレブロンに結合することを報告した19)。後に、サリドマイドはセレブロンと基質タンパク質の分子糊として働き、基質タンパク質をユビキチン化・プロテアソーム分解することが示された。そして、ブロックバスターに成長したサリドマイド類縁体であるレナリドミドは、セレブロンに結合し、ネオ基質(通常の基質と異なり、分子糊によって新たに基質となるタンパク質)であるIkarosとAiolosという2種類の転写因子を分解することで、多発性骨髄腫に対する治療効果を示すことも明らかになった。ついで2017年にエーザイ株式会社の大和隆志博士らは、スルホンアミド系薬剤インジスラムが、ユビキチンリガーゼであるDCAF15(DDB and Cullin 4-associated factor 15)に結合して分子糊分解薬として働き、CAPERαをユビキチン化・プロテアソーム分解することを発見した20)。本発見は、分子糊分解薬がサリドマイド以外にも存在することを示した点も興味深い。しかし、新たな分子糊を理論的に設計するのは現時点では難しく、上記2例も生物活性化合物の作用機序を探索した結果、分子糊が発見された経緯がある。これに対して復旦大学のBoxun Lu博士らは、マイクロアレイのスクリーニングから、オートファジー関連タンパク質LC3(微小管関連タンパク質1軽鎖3)と神経変性タンパク質の分子糊を発見し、神経変性タンパク質をオートファジーによって分解することを2019年に報告した14)。 さて本特集では、アステラス製薬株式会社の早川昌彦博士がアンドラッガブルな標的タンパク質と考えられていたKRASを分解誘導するPROTAC ASP3082について、ファイメクス株式会社の冨成祐介博士と蒲香苗博士が標的タンパク質分解誘導薬探索プラットフォームであるRaPPIDSTMについて、伊藤拓水博士は分子糊分解薬サリドマイドについて、田辺三菱製薬株式会社の松本 安正博士と東京大学の相川春夫博士がRIBOTACについて、それぞれご執筆くださった。20年程前に、ユビキチン-プロテアソーム系を人工利用する二機能性分子PROTACから始まった分解創薬は、他タンパク質分解機構の人工利用に展開され、またアンドラッガブルなタンパク質に対する新しい治療戦略へ発展しつつある。さらに、例えばリン酸化やアセチル化など、ユビキチン化以外の翻訳後修飾を人工的に付与する二機能性分子の創創薬

元のページ  ../index.html#20

このブックを見る