MEDCHEM NEWS Vol.34 No.4
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3. PROTACの課題202リンカーユビキチンリガーゼリガンド図1  標的タンパク質分解誘導薬PROTACユビキチンリガーゼ標的タンパク質リガンド標的タンパク質Ub:ユビキチンプロテアソーム標的タンパク質の分解PROTACUbUbUbUbUbよって認識され、加水分解される。PROTACは、ユビキチンリガーゼ-PROTAC-標的タンパク質の三者複合体を生理的条件で誘導し、標的タンパク質のユビキチン化・プロテアソーム分解を誘導する(図1)。 2010年に東京大学の橋本祐一博士らは、ユビキチンリガーゼIAPs(inhibitor of apoptosis proteins)の低分子リガンドを連結させた低分子PROTACを報告し、IAPsがPROTACに利用できることを示した2)。2015年にHarvard大学のJames Bradner博士らとCrews博士らが、2017年に国立医薬品食品衛生研究所の内藤幹彦博士(現東京大学)らが、ユビキチンリガーゼであるセレブロン3)やVHL(von Hippel-Lindau)4)、IAPs5)のリガンドをそれぞれ連結させた低分子PROTACを報告した。これらPROTACは、nMオーダーなどの低用量で分解活性を示し、また疾患動物モデルで有効性を示した。これが発端となり、PROTAC研究は爆発的に広がりを見せている。2019年にがんを対象としたPROTACの第Ⅰ相臨床試験が、2022年に第Ⅲ相臨床試験が、それぞれ米国で開始された。PROTACのより詳細な歴史や動向は、優れた総説6)をご参照いただきたい。 以下に、PROTACが創薬モダリティとして大変注目されている理由を列挙する。1) がんや神経変性タンパク質7)、転写因子、足場タンパク質、基質結合タンパク質など、アンドラッガブルな疾患関連タンパク質も理論上標的にできる。2)PROTACが触媒として働き、低濃度で薬効を示す。3) 分解された標的タンパク質が再び発現するまでその機能を発揮できないため、タンパク質分解(event driven)は阻害(occupancy driven)よりも薬効が持続し、また薬剤耐性化が起きにくいことも期待される。4) 複数の標的タンパク質に結合するリガンドをPROTAC化することで、各結合親和性に依存せずに分解選択性を変更できる可能性がある。これは、ユビキチンリガーゼ-PROTAC-標的タンパク質からなる三者複合体が安定である方が分解活性が強 い8)ことから説明される。また、リンカー導入位置に依存して各標的タンパク質に対する親和性が変化することも影響する。5) 過去の創薬プロジェクトで得たリガンドを再活用し、PROTAC研究を遂行できる。6) これまでに蓄積された低分子創薬のノウハウを、PROTAC研究に活かすことができる。7) リガンドとして、ペプチドや低分子の他、核酸9)やタンパク質なども利用することが理論上可能である。機能のないリガンドも利用できる。 一方、PROTACの課題として、以下が議論されている。1) 分子量が500を超える二機能性分子であるPROTACは、経口吸収性が低いなどの体内動態に課題を有する事例も多い。2) 標的タンパク質によって、最適なユビキチンリガーゼが異なる。すなわち、ユビキチンリガーゼ-PROTAC-標的タンパク質からなる三者複合体の安定性が、強い分解活性に重要であるため、低分子PROTACで汎用されているユビキチンリガーゼであるIAPs、セレブロン、VHLに対するリガンドを連

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