MEDCHEM NEWS Vol.34 No.4
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5. 最後に197AUTHOR成可能な化合物ライブラリーを圧倒的スピードで合成することである。必要なプロセスを担う最適な機器を区画内に配置し、その間の資材や溶媒、試薬などをロボットアームに搬送させるコンセプトで、合成と精製それぞれのフェーズの全自動化を設計・構築した。それら2つのフェーズを連結することでロボティクス基盤が完結する。構築時は動作設定に試行錯誤の連続であったが、合成から溶液調製までの全工程を完全自動化したプラットフォーム構築に成功している。 合成ロボティクスは、多様なWarhead導入による共有結合型化合物の拡充などで活用し、化合物ライブラリーの大型化が加速されている。それらに関する薬理、薬物動態、安全性など、多面的な評価により膨大なデータ(創薬ビッグデータ)が生み出される。この自社独自の創薬ビッグデータを獲得することで、真の意味でAIを活用した創薬が可能となると考えている。創薬ビッグデータに基づいてAIが構築する創薬仮説を網羅的に検証するためには、多大な労力が必要となるため、ますますロボティクスによる研究自動化のニーズが高まる。このように創薬研究においては、ロボティクスによる研究自動化とAI活用とは相補的な関係にあると考え、当社ではバランスをとりながら両者を並行して強化すべく取り組んでいる。 人生100年時代を迎えるにあたり、患者さんのペイシェントジャーニーをしっかりと支え続けるためのメディカル・ニーズはますます大きくなっていく。創薬仮説や標的分子の枯渇が話題となることが多いが、限られた疾患の理解や既存の技術でも取り組みやすいもの(Low-hanging fruit)が枯渇していることが主な要因と考えている。疾患の理解がより深まり、未知のバイオロジーの探索が進むことで、検証すべき創薬仮説はますます増えていくのは間違いない。一方で、より多様化、複雑化するモダリティを駆使して、創薬仮説を検証し、新参考文献 1) Vodenkova S., et al., Pharmacol. Ther., 206, 107447 (2020) 2) 戸邊雅則,医薬産業政策研究所リサーチペーパー・シリーズ,No.72 (2018)規の医薬品の創製につなげていくためには、創薬研究者、特にメディシナルケミストが担う責任はますます重くなると思われる。 当社は、国内外のアカデミアやバイオベンチャー、他の製薬企業との連携による創薬エコシステムの一翼を担うことで、新薬を生み出すためのイノベーションを持続的に起こすためのトランスフォーメーションに挑戦している。特に、がんおよび免疫関連疾患の領域において、疾患の理解を深め、治療のための仮説を構築し、それを検証することで、革新的な治療薬を生み出すために、独自の強みであるシステイノミクス創薬を深掘りするのと並行して、新たなモダリティや創薬技術の獲得に常に挑戦していく。持続的に創薬トランスフォーメーションを成功させて、がんなどの難治性疾患を克服するための革新的な医薬品を生み出すことで、世界中の人々の「いつもを、いつまでも。」(大鵬薬品のコミュニケーション・スローガン)に貢献していきたい。相良武(さがら たけし)1995年 万有製薬株式会社入社1997年 メルク社出向2009年 大鵬薬品工業株式会社入社同 年 同社創薬基盤技術研究所長2018年 同社研究本部長2023年より現職荻野悦夫(おぎの よしお)1994年 万有製薬株式会社入社2009年 大鵬薬品工業株式会社入社化学研究所2020年 同社創薬企画推進部創薬企画課2021年より現職Copyright © 2024 The Pharmaceutical Society of Japan

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