MEDCHEM NEWS Vol.34 No.4
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ないとう はるお1972年 慶應義塾大学商学部卒業1974年 ノースウエスタン大学経営大学院修了(MBA取得)1975年 エーザイ株式会社入社1988年 代表取締役社長2004年 代表執行役社長(CEO)2014年から現職日本製薬工業協会副会長、国際製薬団体連合会会長、日本製薬団体連合会会長などを歴任1999年、2014年にそれぞれ英国よりCBE、KBE(名誉大英勲章)を受章MEDCHEM NEWS 34(4)185-185(2024)185年4回2、5、8、11月の1日発行 34巻4号 2024年11月1日発行 Print ISSN: 2432-8618 Online ISSN: 2432-8626エーザイ株式会社 代表執行役CEO内藤 晴夫 世界初のアルツハイマー病(AD)疾患修飾薬「レケンビ」が米国、日本、次いで中国で承認され、認知症治療は新たな時代を迎えた。ここまでエーザイは40年以上にわたって認知症領域で研究開発を続けてきたが、それは失敗を乗り越えリスクに立ち向かう日々の連続であった。1997年に「アリセプト」を発売し世界初のAD薬の開発に成功したが、その後、次世代の創薬を目指す日々が続いた。創薬仮説、臨床研究手法、モダリティーも大きく変化する経験であった。 現代創薬はhuman biologyに基づくものでなければならないし、必然的にそのサンプルや知見を有するアカデミアとの連携の重要性は高まる。家族性の疾患研究を重視し、孤発性のそれへいかに転換できるかも大切となる。かかるリサーチを通じての創薬仮説の構築と、その臨床研究における証明プロセスにおける確度の向上が成功の鍵となっている。レケンビの臨床研究でも鍵となったのが第Ⅱ相試験であった。当局指示への対応に時間を要したこともあり、6年間の長きを費やしたが、この試験で4つの重要事項について確認することができた。それらは、創薬仮説は正しいか、対象とするポピュレーションは正しいか、用法・用量は正しいか、クリニカルエンドポイントは正しいかであった。 アンメットメディカルニーズは存在し続け、その解決手段としての速やかな新規薬剤開発は常に時代の要請である。しかしながら、その創薬の道程において、急がば回れ的な心構えも必要となる。また失敗なくして成功はない。AD研究はアリセプトの時代から始まり約40年間継続している。この間、低分子医薬品でのチャレンジやパートナーの開発したAD-DMT(疾患修飾薬)での挑戦もあったがいずれも失敗してい る。しかし、失敗に耐えていると経験知が蓄積されていく。この経験知こそが創薬における成功の要諦であり、創薬という名の船を正しい針路へと導いてくれる「海図」となる。その海図を書き込み、ナビゲートするキャプテンの存在も欠かせない。そして何よりもわれわれの研究者は当事者やご家族と常に交流し、その喜怒哀楽を知っている。われわれに何を期待しているかも知っている。いわばAD当事者との共感関係があって、それを創薬の原点、動機としている。病態を見るのではなく人を見る、これこそが現代の「創薬精神」であると考えている。Haruo NaitoRepresentative Corporate Officer and CEO, Eisai Co., Ltd.Copyright © 2024 The Pharmaceutical Society of Japan公益社団法人 日本薬学会 医薬化学部会NO.4Vol.34 NOVEMBER 2024創薬精神について

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