MEDCHEM NEWS Vol.34 No.3
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限定的:自分中心となる 数千から数万の文献狭い:研究者の関心や背景が支配 狭いが内容は深い 偏見や経験が入るほとんどの業務は「自律的研究」 実施には手間や時間がかかる自分の意志をもって活動6-2. 非定型研究業務である自律型(オートノマス)研6-3. (大規模)生成AIの展開に備えた準備の必要性 ChatGPTが発表されてから約1年半が過ぎた、現時点で研究業務にどのような形式、レベル、割合、頻度で関与するようになるかは不明である。今回の動きは、筆者が現在まで関与してきたコンピュータ支援型の研究(すなわち自動型研究)とは抜本的に異なる内容で展開することは確実である。筆者がコンピュータ化学に興味をもち、研究し始めたころは化合物のアナログ情報を情報ロスなくコンピュータのデジタル情報に変換するという基本的な研究から始まった。その後、研究者として創薬、毒性予測、物性予測、バイオ解析、医療解析、機器分析等さまざまな分野に関して共同研究等を多数実施し、コンピュータ支援研究の発展の凄さを実感してきた。富士通ではSEとして働いていたので、研究と同時究を支援する(大規模)生成AI176表2  人間と種々生成AIにおける基本機能と差異項目/内容学習文献内容と数思考範囲実務作業基本的な差異人間(大規模)生成AI極めて普遍的:広範囲をカバー 極めて多数の文献を学習極めて広い:多種多様な分野学習 広範囲で内容は比較的浅い 総て公平に学習、偏りは少ない「自律的研究」も支援可能 適用分野や技術は広範囲で高速自立活動はなく、従属のみ6-1. コンピュータ時代のAIと情報時代のAIの違い 今回のAI革命を推進するAIは、従来から展開されてきたAIとは支援内容やレベルがまったく異なる。この点で、従来とは異なるまったく新しい世界が開けることが期待される。今回のAI革命により、特に研究者の専任事項であり、古代から近代、現代と数百年間変化のなかった知的・創造的業務(自律型(オートノマス)研究の本質)に技術のメスが入ることは大きい。研究の大部る。したがって研究者は必要に応じて(大規模)生成AIを利用することにより、自律型研究効率やその研究精度を高めることが可能となる。今後の研究では、化合物関連の創薬でも物性でも、安全性でも、さらにはバイオ、医療分野でも総ての研究分野にて(大規模)生成AIを活用することで、最新、広範囲、先端的、スマートな研究を実施できるし、他の研究者との競争に有利に立てるはずである。6. おわりに 時代が「コンピュータ時代」から「情報時代」へと移行し始めたことは明白である。特に今回の変化は「AI革命」と呼ばれ、このAIの最大の特徴が人間に残された最後の機能分野である知的・創造的業務を支援可能であることが、革命レベルと称される理由である。AIの革命が始まり、約二百年前の産業革命時に起こった「ラッダイト」運動のように、現在は新たな技術の導入に対する混乱期にあると感じる。もちろん、ラッダイトのような破壊運動とはまったく異なり、新たなAI技術を情報時代に混乱なく導入すべく画策するもので、ルールが決まればAI革命は急速に進展するであろう。時代が証明するように革命は確実に進行する。分を占め、研究者の能力に依存してきた「自律型研究」業務にChatGPTのようなAIが参入することで、研究者は今回のAI革命への対応が必須となる。 「コンピュータ時代」の主たる解決目標は、定型業務に関する自動型研究である。一方で、今後の「情報時代」は、研究業務を特徴づける非定型業務に関する自律型(オートノマス)研究が解決目標となる。ChatGPTが発表される以前は自律型研究への支援技術は存在しなかった。現在、(大規模)生成AIはさまざまな国々、機関や企業、プロジェクトで開発、改良、発展している。桁違いの資金を投入し、世界を引っ張る大企業が社運をかけて開発競争している。今回のAI革命が、今後どこまで発展するかを見通すことは革命が始まったばかりの現時点では不可能である。

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