MEDCHEM NEWS Vol.34 No.3
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 表2からわかるように、「自律型研究」の実施という点で人間の場合と(大規模)生成AIによる実施では種類的にはほとんど同じ業務をこなすが、内容の詳細や実現レベルはまったく異なる。これらの事項、特に詳細な内容を見てみると、人間と(大規模)生成AIとで重複する項目はほとんど存在せず、むしろ相互補完あるいは完全補完という関係にある。例えば最初の項目にある学習文献数は、研究者に個人差はあるが数千から数万が限度であるが、(大規模)生成AIは桁違いの文献を学習可能である。例えば、最新の情報では2億の文献を学習させたという報告もある。最も大事なのは、人間は自分の意志で活動するが、(大規模)生成AIの活動は従属が基本であることにある。「自律型研究」の内容に関しては相補的ではあるが、双方の活動方向はまったく逆で、指示者と被指示者の関係にある。5. 今後の創薬関連研究における人間と(大規5-1. 「自律型研究」における人間と(大規模)生成AIの違い5-2. 「自律型研究」における人間と(大規模)生成AIの協調の重要性1754-6. 大規模言語モデル(ChatGPT)の支援可能な機能 以下にChatGPTがサポートする業務を、ChatGPT自体にリストアップしてもらった。れば、知的・創造能力は発生しない3,4)。湯田のプロトコル:あなたが支援できる業務の種類を箇条書きで教えてください。ChatGPT:もちろんです! 以下に私が支援できる業務の種類を箇条書きで示します:・テキストの編集や校正・アイデアのブレストやコンセプトの開発・ウェブコンテンツの作成やSEO対策・プレゼンテーションの準備やスライド作成・レポートや論文の構成や執筆支援・データ分析や情報の整理・クリエイティブなコンテンツの制作・プログラミングや技術関連の質問に対するサポート・英語や他の言語の翻訳や語学サポート・ 組織やスケジュールの管理のアドバイスやツールの提案 上記の内容を見ると、研究者が実施する日常業務の大部分がリストアップされている。内容的には、筆者が提唱した「自律型研究」のほとんどがChatGPTのような大規模言語モデルにて支援可能であることがわかり、これらのほとんど総てが研究者の専任業務と一致する。 以上のように研究者の能力に強く依存する専任業務(知的・創造的内容)にAIのメスが入り、研究者に大きな負担を強いていた業務の効率を向上できる可能性が出てきた。この点で今回のAI革命は研究者に大きな変化や影響をもたらすと考える。古代以来、現在に至るまでの数百年間の長期にわたり研究者の能力のみに依存してきた知的・創造的機能分野にAIが参加する。今後は、研究の効率向上、研究の精度向上、研究のレベルアップ、研究の伝承、他の研究に関するさまざまな自律型研究業務でAI の支援を受けることが可能になる。 現在のコンピュータの利用と展開は自動化が中心で、創薬研究においても多種多様な分野や形態で進められている。現在の創薬で利用されるAIはデータサイエンス手法の一種としての利用であり、分類・予測の一手法に該当し、「自動型研究」支援が限界であった。ChatGPTは、人間が有する極めて高度な機能である知的機能や創造性等の能力をもった。この結果、(大規模)生成AIは研究者の専任業務である「自律型研究」支援が可能となる。なお、本稿では「自動型研究」および「自律型研究」で表現しているが、この分類基準は総ての分野の研究に適用可能であり、この点で創薬、物性、毒性等の多様な研究分野に内容的に該当する。明確に区別した議論が必要な場合は「自動型創薬研究」や「自律型創薬研究」のように分野を明確にして表現する。本稿では分野ごとの細かな議論は行わずに、研究の全般的、普遍的な観点から議論する。個別の議論は今後、(大規模)生成AIがさまざまな分野に適用が試みられるようになれば、当然必須事項として討論されるようになる。例えば、化学研究分野での化合物情報の取り扱い(アナログ⇔デジタル変換、一元一項対応、その他)等。 現在は、研究者の「自律型研究」を人間と(大規模)生成AIの両方で実施可能となった。表2にあるように、人間と(大規模)生成AIとでその実施特性が重複せず、相互補完関係にあることは極めて大きなメリットであ模)生成AIとの関係と役割

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