ONNHOOONNONNONOOONONONOFF169Figure 6. LUNA18の化学構造F3CHNHN3-3.LUNA18の創製 Figure 5で示した検討を通じて高膜透過性の主鎖構造を特定した後は、それまでに蓄積された側鎖改変のSARの適用でLUNA18の特定に至った(Figure 6)。構造最適化の全般は、筆者らが設定したDrug-like criteriaに原則従う形で進められた。すなわち、疎水性の探索は主にcLogP=13〜15の範囲から大きく逸脱しないものであった。膜透過性を損ねる極性官能基(アミンやカルボン酸)を用いることなく、疎水性相互作用の最適化のみでKD=60pMと抗体創薬並みの親和性に到達した5)。 ヒット化合物AP8784からLUNA18に至る構造最適化は、スキャフォールド・ホッピングを行うことなく、活性向上と経口吸収性および細胞内移行能の獲得を実現した。AP8784とLUNA18の活性構造の重ね合わせではよい主鎖構造の一致を示し、ヒット化合物の性質を維持したままの構造最適化であったことが示された4)。このことは、非常に高活性であるが経口剤に適した性質をもたないペプチドヒット(例えばペプチドホルモン等)から出発したペプチド創薬がしばしば陥るジレンマ(経口吸収性を付与すべく大きな構造変換を行った結果、薬理活性が減弱する)と対照的である。筆者らの創薬プラットフォームは、経口剤に適した性質をもつヒットから創薬を開始することで、このジレンマを回避しうることを実証した。 LUNA18は経口のpan-RAS阻害剤として、日本および米国にて第一相臨床試験が進行中である。LUNA18は複数のKRAS変異細胞株に対して強力な増殖阻害作参考文献 1) Simanshu D.K., et al., Cell, 170, 17‒33 (2017) 2) Ostrem J.M., et al., Nat. Rev. Drug Discov., 15, 771‒785 (2016) 3) Huang Y., et al., Chem. Rev., 119, 10360‒10391 (2019) 4) Ohta A., et al., J. Am. Chem. Soc., 145, 24035‒24051 (2023) 5) Tanada M., et al., J. Am. Chem. Soc., 145, 16610‒16620 (2023) 6) Nomura K., et al., J. Med. Chem., 65, 13401‒13412 (2022) 7) Chakrabarti P., et al., Prog. Biophys. Mol. Biol., 76, 1‒102 (2001) 8) Burgess A.W., et al., Biopolymers, 12, 2599‒2605 (1973) 9) Lipinski C.A., et al., Adv. Drug Deliv. Rev., 23, 3‒25 (1997)用(IC50=0.17〜2.9nM)を示し、さらにマウスゼノグラフトモデルを用いた試験にて、1日1回の経口投与でKRASシグナルの抑制を伴う強力な抗腫瘍効果を与えた4)。LUNA18は4種の動物モデル(マウス・ラット・サル・イヌ)の経口投与において、21〜47%のバイオアベイラビリティを示し、経口薬として十分な経口吸収性が示された。人工腸液(FaSSIF)に対する溶解度は、17.8μg/mLと医薬品として許容される値であった。132種のオフターゲット標的に対するin vitro薬理学的評価(CEREPパネルアッセイ)では、10μMのLUNA18に対して50%以上の阻害が観察されたのは2標的であり、オフターゲット毒性のリスクは低分子医薬品と同等と見積もられた4)。5. おわりに 低分子や抗体といった主な創薬モダリティと同様に、中分子創薬は今後成長する可能性がある。筆者らはDrug-like criteriaを満たす中分子ペプチドヒットを取得しうる創薬プラットフォームを構築し、ヒット化合物の性質を維持しながらの構造最適化を通じた中分子臨 床化合物の創製を実証した。この創薬の進め方は、Lipinskiらによって提唱され、世界の製薬企業の低分子創薬研究に数多くの成功をもたらした「ルール・オブ・ファイブ」に従った創薬研究に類するものである9)。 最後に、中分子創薬プラットフォームの確立およびLUNA18の創製は、中外製薬株式会社の多くの従業員の成果であり、この場をお借りして本研究に携われた皆様に厚く御礼を申し上げたい。4. LUNA18のプロファイル
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