6. おわりに138左端がYong、右端から二人目がAritro、右端が筆者 (2024年撮影)。深瀬嘉之(ふかせ よしゆき)2001年 大阪大学理学研究科博士課程修了同 年 大阪大学理学研究科博士研究員2002年 ハーバード大学ICCB博士研究員2004年 武田薬品工業株式会社医薬研究本部2014年 Tri-I TDI出向2020年 Tri-I TDI転籍2022年 Ferring Pharmaceuticals2024年1月 Maipl Therapeutics同年5月より現職AUTHOR写真3 Maipl Therapeutics創立メンバー キスパートであり、かつCSOとしてVenture Capital FirmやInvestorとのScientificな議論をリードし、筆者はMedicinal Chemistとしての立場から、化合物の合成や評価などの開発プランの策定を主に担当した。3者それぞれの異なる専門性を効果的に掛け合わせることで、効果的に議論を進めていった。また、非科学的かも知れないが、各メンバーの情熱の強さが実際のプロジェクトの成否を分ける、最後の一押しになり得ることも実感した。目的達成に向かって熱い情熱をもった二人に出会えなければ、大小さまざまな問題を乗り越えての新会社設立はできなかっただろうし、そもそも新会社を設立してまでプロジェクトを継続しようなどと、考えなかったかもしれない。また「何が最大のリスクか?」「クリ ティカルパスは何か?」を最重要課題として常に念頭においてアクションプランの策定と実施を行ったことも、研究所閉鎖という困難な時期においても迅速に目標に向かって進むことができた一因だったのではないかと思う(写真3)。 ニューヨークへ移動してから今年でちょうど10年、創薬研究に初めて触れてから20年というキャリアの節目を迎えて、自身のこれまでを振り返ってみると、改めて周りの方々に恵まれてきたと心から思う。強い意志をもって未開の地を切り拓いたわけではまったくなく、研究者生活の節目、節目での素晴らしい人々との出会いによって今日まで導かれてきた。治療モダリティの多様化に伴って、低分子創薬がおかれている状況は非常に厳しいと言われて久しいが、そんな時代にMedicinal Chemistを名乗り続けられたのはまったくの幸運だと思う。ただ、環境の変化を恐れずにComfort Zoneから踏み出していったことが少なからず寄与していると信じたい。とはいえ、「プロジェクトマネージメントや研究スタイルなど、目指すところは日本とアメリカでなんら変わらないじゃないか」と感じる読者も多いと思う。まったく同感。研究の成否は、行われる場所ではなくそれに携わる人によって決まる、と言えるのではないか。そういう意味では、日本か海外か「場所」にこだわる必要はまったくないと思うし、日本国内だけでなく海外へも視野を向けるべきでもある。もちろん言語や文化の違いな参考文献 1) 麻生和義, MEDCHEM NEWS, 26, 8‒13 (2016) 2) Keller G., et al., The ONE Thing: The Surprising Truth Behind Extraordinary Results, Bard Press, ISBN: 978‒188516774, U.S.A. (2013)ど、越えなければならないハードルは数多く存在するが、前述したように、日本人研究者の研究遂行レベルの高さは、海外研究者に対して劣ることはなく、なんら臆する必要はない。視野を拡げてすべての可能性を検討することが研究の成功への可能性を高めるはずで、ひいては研究者としてのキャリアパスの選択肢を増やすことになると信じている。海外への赴任業務や、海外研究者と交流できる機会があれば、視野を拡げることができるチャンスと捉えて、積極的に利用していただければと願っている。またそこでの新たな出会いをきっかけに、思いもかけないような未来が訪れるかもしれない。Copyright © 2024 The Pharmaceutical Society of Japan
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