〔SUMMARY〕2. バイオテック文化との出会い1.はじめに134MEDCHEM NEWS 34(3)134-138(2024)Keyword carrier path, medicinal chemist, drug discovery, pharmaceutical, biotech, academia深瀬嘉之Yoshiyuki Fukase*1 執筆の依頼を頂戴した際、「アメリカでの複数の企業や組織でMedicinal Chemistとして働いてきた経験を踏まえて、キャリアパスについて一つの新しい視点を読者に提供できるのではないか」との提案をうけた。振り返って考えてみると、いつも余裕がなく、ギリギリの選択を繰り返してきた研究者生活だったと思う。いつまで溺れずに波に乗り続けられるか、心配の種は尽きないし、まだまだ、学び続けないといけない立場でもあるが、海外での創薬研究に興味のある研究者の皆さんにとって少しでも参考になればと願って筆をとることにした。 筆者のアメリカの創薬研究機関との関わりは、武田薬品工業株式会社(以後、武田薬品)における、海外の社内共同研究者との研究活動に始まり、その後ニューヨークに渡ってアカデミア研究機関での創薬研究、次いでサンディエゴに移って製薬企業に転職、さらにはそこから独立してスタートアップ企業の設立までにわたって、医薬品研究のメインドライバーとされる種々のタイプの組織に関与してきた。この場ではそれぞれの組織でどのようなことを経験したか、また人との出会いがキャリアパ Medicinal Chemistに求められるスキルや役割は大きく変化し、明確なキャリアパスを構築することが容易ではない時代になったと言われて久しい。筆者のアメリカでの製薬企業、アカデミア、バイオテック企業における研究活動から得られた経験や学びとともに、Medicinal Chemistとして筆者がこれまでたどったキャリアパスを一例として紹介することで、読者のキャリアに関する視野を拡げるきっかけになればと願う。また人との出会いがキャリア選択に重要な役割を果たし得ることもお伝えしたい。The skills and roles required of a medicinal chemist have changed dramatically in recent years, and it is no longer easy to establish a clear career path. The author hopes readers to broaden their perspectives by introducing career path he has followed as a medicinal chemist, along with his experiences and learnings from his research activities in pharmaceutical company, academia, and biotech company in the United States. Meeting and relationship with new people can play an important role in choosing a career path.スに大きく影響することを筆者の主観を交えて紹介し、読者の皆さんと共有したい。 2004年の入社当時、武田薬品はすでにグローバル企業として知られていたが、研究部門はというと、日本国内にのみ研究所が所在するドメスティックな組織であった。現在では研究においても完全にグローバル化されたが、そこへ向かう過程のなかで、数々の貴重な学びの機会を得た。なかでも製薬企業研究員の立場からバイオテック研究文化に触れることができたのは、筆者のその後の研究者としての活動に大きく影響を与えたと考えている。サンディエゴに所在するバイオテック企業であるSyrrx社を買収後、設立された海外研究拠点の一つであるTakeda San Diego, Inc.(TSD)との共同研究に、メドケムグループメンバーとして参加した。TSDの研究チームとの日々のプロジェクトに関する議論に加えて、交換研究員の受け入れ、自身もサンディエゴへの派遣と交流を深めるなかで、バイオテック企業の研究文化の一端に触れることができた。読者のみなさんには自明のことと思われるが、バイオテック企業の強みは自らの特徴を生かしたシンプルで迅速な意思決定にあり、またリスクをどんどん取っていく企業文化と研究者が揃っている*1 フォーワードセラピューティクス 化学部門長 Head of Chemistry, Forward Therapeutics, Inc.Experience and encounters in drug discovery at research organizations in the United Statesアメリカの創薬研究機関での経験と出会い
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