MEDCHEM NEWS Vol.34 No.3
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130BATER:抗原をテンプレート(鋳型)とした化学反応Slow6789678910Elution volume(mL)11抗原分子選択的化学反応抗原上では……蛍光性大幅な反応加速!図3  抗原を鋳型とした新しい化学反応であるBATER 抗体1Fab抗体2Fab近接エピトープ抗原がないと……総タンパク質蛍光抗原が不在の場合には遅い反応が、抗原存在下では大幅に加速される。発蛍光性の銅フリークリック反応によって実証した。Fast4 h0 h10Elution volume(mL)11創薬デザイン研究センターにおいて、永田諭志博士、 津本浩平博士らと共に、医薬品開発を目的とした抗体改変技術に従事してきた。特に、抗原分子の2つの異なるエピトープに結合する抗体可変領域を組み込んだ人工抗体であるバイパラトピック抗体(BpAb)の創出に取り組んできた(図4)。その中で、隣接するエピトープに結合する2つの抗体から創出した BpAb(Bp109-92)が、TNFR2との間に1:1複合体を選択的に形成することを見出した2)。さらに、大阪大学の難波啓一教授らとの共同研究によるクライオ電子顕微鏡単粒子解析によって、Bp109-92の2つの抗原結合フラグメント(Fab)が接触してTNFR2に結合する構造が観察された(図4)2)。 BATERは、この際に2つのFabのC末端が約3nmの距離に近接することから着想した。実際に、C末端が近接せず、約15nmとなる抗体の組み合わせを用いると、同様の反応加速は観察されない。本反応は抗原特異的であるのみならず、エピトープ選択的にデザインできることも明らかにした(図5)。実用化研究の果実に由来するこの萌芽的研究の成果を2023年に論文発表するとともに1)、京都大学とNIBIOHNから共同プレスリリースし、連携による新しい研究を世界に発信することができた。現在はBATERの利用できる抗原・抗体ペアについてのより精密な理解を進めつつ、抗原上反応を治療薬や診断薬に応用するための研究を進めている。 BATER以外にも、構造改変による抗体の機能制御に向けた取り組みを進めている。上述したBp109-92は、 1:1結合という特性がTNFR2アンタゴニストとしての機能を最大化するため2)、これを医薬品として開発する取り組みが医薬基盤研発ベンチャーにおいて進んでいる。この一方で筆者らは、1:1複合体が形成されるメカニズムの解明、また複合体の制御に向けた基礎的研究を進めている。これらの知見を活かし、BpAbをさらに幅広い抗体医薬品の実用化につなげようとしている。 本稿にて示したように、京大薬とNIBIOHNの両者の技術を連携によって融合することで、実用化に向けたアプローチと基礎研究の好循環サイクルを回し、これを最

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