まるおか けいじ1976年3月 京都大学工学部工業化学科卒業1980年6月 ハワイ大学大学院化学科博士課程修了同 年7月 名古屋大学工学部助手1990年1月 名古屋大学工学部助教授1995年4月 北海道大学大学院理学研究科教授2000年4月 京都大学大学院理学研究科教授2018年5月 日本化学会筆頭副会長2019年4月 京都大学大学院薬学研究科特任教授2024年5月 日本化学会会長MEDCHEM NEWS 34(3)121-121(2024)121年4回2、5、8、11月の1日発行 34巻3号 2024年8月1日発行 Print ISSN: 2432-8618 Online ISSN: 2432-8626京都大学 大学院薬学研究科日本化学会 会長丸岡 啓二 北海道大学理学部の大学院重点化で新設された有機金属化学研究室の教授として名古屋大学から赴任したのは、1995年のことである。北海道は自由な気風にあふれ、また本州から離れていることもあり、じっくりと研究ができ、研究教育面でもいろいろと考える時間を確保できた。北海道大学では、「Boys, be ambitious」と「Frontier spirit」の言葉をよく耳にしたが、この二つは研究を行ううえでも非常に重要な言葉である。お陰で、北海道大学ではまったく新しい研究、すなわち金属を使わない有機分子触媒としての高性能キラル相間移動触媒である「丸岡触媒」および「簡素化丸岡触媒」の創製に成功し、有機分子触媒化学という新しい分野を確立できた。 一方、教育面においては、恩師である野崎一先生の薫陶を受け、「大学人にとって教育も大事である」ということの意味を考えさせられた。その一つの取り組みとして、1998年、今後の日本に必要なエリート育成を目指した「リーダー型若手研究者を育成する若手道場」の設立を提案したことがある。従来、将来有望な若手研究者の出現は自然の成り行きにまかせていたが、中国の台頭が顕著になるこれからの時代には、優れた若手研究者を積極的に育成していく必要に迫られたからである。しかしながら、その当時、この手の会議は皆無であった。またエリートという言葉が敬遠されたのか、その実現は10年以上も見送られてきたものの、2010年にやっと「大津会議」という若手育成の場が誕生した。金の卵というべき志願者は、全国の有機化学分野の日本学術振興会特別研究員の中から教授推薦を受け、書面選考により毎年16名を選抜している。すでに、第1〜14期生の総数はほぼ230名となり、特にその7割近くが助教、講師や准教授としてアカデミアで活躍しており、今や日本の有機化学界の一大勢力になっている。また、産業界でも若手リーダーとして活躍していると聞く。他分野でも同様の試みが起これば、新生日本社会を創る起爆剤になりそうである。 最近、野球に限らず、日本スポーツ界の躍進が目覚ましい。その躍進の源として、①才能ある若手を見出す;②指導者の明確な方向付け;③若手が活躍できる場を与えるという三条件が挙げられる。この三条件がそろえば、スポーツ分野だけでなく、産学界のどんな分野においても国際競争に太刀打ちできるのではないだろうか。大津会議では全国から才能ある博士課程の学生を選抜し、この会議で世界競争に打ち勝つ方向性を教示している。さて、それでは金の卵から社会に巣立った大津会議の卒業生達は産学界の研究分野で十分、活躍できているのであろうか。野球の大谷選手のような破格の待遇とはいわないまでも、大学や企業で彼らの研究能力に見合った待遇や研究環境を与えられるようにしたいものである。日本の若手研究者の国際的な活躍を期待したい。Keiji MaruokaGraduate School of Pharmaceutical Sciences, Kyoto UniversityPresident, The Chemical Society of JapanCopyright © 2024 The Pharmaceutical Society of Japan公益社団法人 日本薬学会 医薬化学部会NO.3Vol.34 AUGUST 2024若手研究者が国際競争に打ち勝つには
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