6. 他家細胞移植7. 無血清培地の開発65齢黄斑変性症の治療が日本で初めて行われ、その後もヒト心筋細胞シートを用いた重症虚血性心不全の治療、ヒトドーパミン前駆細胞を用いたパーキンソン病治療等が次々と行われて、iPS細胞を利用した細胞由来製品の開発が注目を浴びているが、海外では体性幹細胞を利用した細胞製剤の開発が先行している。 この体性幹細胞の中でも骨髄に存在する間葉系幹細胞は、軟骨、血管、心筋等に分化する能力をもち、この間葉系幹細胞を利用した治療が数多く行われている。一方、造血幹細胞は、骨髄の中に存在し、白血球や赤血球、血小板等の血液細胞に分化する能力をもつ血球系の幹細胞で、白血病等の治療で行う骨髄移植は、この造血幹細胞を用いた再生医療の代表的な治療法の一つである。海外ではすでに軟骨、皮膚、骨、歯肉等の他家細胞由来製品が数多く上市されている。 iPS細胞等の多能性幹細胞を用いる場合、移植すれば奇形腫を形成するリスクや、iPS細胞の場合には、遺伝子を導入して作製するため、遺伝子挿入部位によってはがん化の危険がある。さらに多能性幹細胞からの分化誘導には高度な技術や工程管理が求められ、長期間の培養が必要となる等、実用化には大きなハードルが存在するが、現在、改良が進められている。 このような背景から当社では、再生医療等製品の開発において、間葉系幹細胞を用いることが最もリスクが低いと考え、他家脂肪組織に由来する間葉系幹細胞を開発することとした。 自家細胞を用いる場合、本人の細胞であることから免疫拒絶はないものの、組織を採取してから培養して提供できるようになるまでに長期間を要し、疾患によっては患者の細胞では治療効果が低い可能性があること、大量生産が難しいため製造コストが高いこと、患者ごとに入手できる組織が異なることから、製品としての品質管理が非常に難しい等、多くの課題がある。 一方、他家細胞を用いる場合には、免疫拒絶、ドナー由来の感染リスクヘの対応の必要があるものの、あらかじめ製造することで緊急な処置に対応できる、品質管理が比較的容易で大量生産により製造コストを下げることができる、患者本人にとって自分の組織を採取するような侵襲的な行為を伴わないこと等、多くの利点がある。 他家細胞を利用するためには、その原材料となるヒト組織・細胞の入手が必要となるが、献血や骨髄バンク以外において、国内での医療用のヒト細胞・組織を企業が入手することは前例がない。また献血等と異なり、再生医療のための細胞の提供という行為が十分に社会において認知、受容されているとは言い難い。 また再生医療等製品に使用されるヒトその他の生物に由来する原料等について、製造に使用される際に講ずべき必要な措置に関する基準として「生物由来原料基準」が定められている。その中のヒト細胞組織原料基準では、再生医療等製品の製造に用いられる細胞・組織の採取にあたっての最低限必要な要件(同意の取得、同意の撤回の機会の確保、ドナースクリーニング、無償での提供、採取を優先して治療の方針を変更しないこと等)が定められている4)。 当社では、このような細胞・組織の入手という難題に対して、手術等によって切除された廃棄脂肪組織を用いること、また組織入手において対価を支払わないこと等の制約を設けることによって解決策を講じている。 またヒトへ投与される再生医療等製品の原材料に用いるためには、組織採取時に実施されるウイルス検査に加えて、ウイルスの潜伏期間を考慮したウィンドウピリオド(組織採取から一定期間経過)後の再検査が必要となる。組織採取時は、手術時に検査を行っているためにドナーにとって大きな負担とならないと思われるが、このウィンドウピリオド後の再検査については、再生医療等製品の製造のためにだけ必要とされるものであり、組織入手側の都合でしかない。したがって、この負担をドナーのボランティア精神に依存することになり、ヒト細胞・組織の確保において未だ大きな課題となっている。 細胞培養には入手のしやすさからウシ血清がよく用いられ、培養条件の設定が容易で手間がかからない等の利点があるが、ロット間差が大きく、使用する細胞に適したものを選択するためのロットチェックと、選択したロットの大量確保の必要がある。また感染リスクがあり、牛海綿状脳症が未発症地域の血清を購入する必要があるため、安定供給のリスク等があり、血清を含まない培地が非常に有用となる。 無血清培地には血清の代替物を用いることになるが、代替物の各成分に対しても「生物由来原料基準」が適用され、その成分が微生物培養や遺伝子組換え等で作製さ
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