111写真3 ナノテラス外観 提供:NanoTerasu広報チーム原理活用事例写真4 ナノテラス内観利用方法写真5 右から1番目藤井先生およびMCN編集委員 「放射光」とは、光速に近い速度で走る電子の軌道を磁石などで曲げたときに発生する非常に明るい光のことである。 1997年から運用されているスプリング8は、80億電子ボルト(8GeV)の高いエネルギーで電子を加速し、波長が短く金属材料の深部を見るのに適した「硬X線」を主に使うのに対し、ナノテラスは3GeVで波長が長い「軟X線」を使っている。ナノテラスは、この高光度軟X線を利用してモノの構造や機能をナノ(10億分の1)レベルで可視化できる“巨大な顕微鏡”といえる。ナノテラスのエネルギーはレントゲン検査などで用いるX線と同等かそれ以下であるため、利用者が安全に実験できる環境をつくりやすいそうだ。という意味とともに、世の中を照らす日本神話の天照大御神(あまてらすおおみかみ)のように、豊かな実りをもたらしてほしい、という願いも込められている2)。 東北・新潟をはじめとする産学官が連携し、地域企業の産業利用促進に向けた活動を行うことにより、わが国の科学技術の振興ならびに東北地方の新たなイノベーションの創出による新技術や新産業創出による活性化に貢献することを目指している。 ナノテラスは、高輝度軟X線を特徴とし、物質を構成する元素の種類や構造、物質の性質や機能、化学反応や物質が変化する様子などを詳しく知ることができる。素材、エネルギー、環境、食品、生命科学など、さまざまな産業分野での利用が見込まれ、活用に向けた既存放射光施設でのfeasibility studyが行われてきた。 例えば、YouTubeチャンネルで、東北の名産品白石温麺(しろいしうーめん)の製造工程の最適化に生かされている事例が紹介されている4)。「温麵の製造はこれまで伝統的な職人による経験と勘に頼っていた。その中で最も難しいとされるのは乾燥工程であり、品質に大きく影響する。放射光を用いて、麺の乾燥状態を経時的に観察したところ、2~3時間を経過したところで断面に空洞が出現してくることがわかり、これが割れの原因になると考えられた。これまで、製造には12時間の乾燥を行うのがよいとされてきたが、科学的な解析をもとに乾燥時間を半分以下に短縮すれば、コストを抑えて品質を維持できる。科学のメスが入ったことで思わぬ発見があった」 また、組織から切片の作製や染色という作業を経ずに、生の細胞を観察できることも特徴であり、生命科学分野での利用も期待される。例えば、細胞内のどこの小器官に薬剤が分布しているのかも測定可能であるため、新薬開発の成功確率の向上、作用メカニズム解析の促進につながるのではないかと期待される。製薬企業、アカデミアとのコラボレーションも歓迎するとのことであった。 ナノテラスを民間企業が利用する場合は、ゴルフ会員権のようなコアリションメンバーに加入する必要がある。加入時期や口数によって、連続して利用できる最大時間が変わるようである5,6)。
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