(0.5mmol)OHHI+Mg(1.5 equiv)THF(3.0 equiv)PhBrball milling(30Hz)60min, in air1.5 equiv100図5 メカノケミカル反応によるGrignard試薬合成図6 ボールミルを用いた有機カルシウム試薬の発生と還元的クロスカップリング反応Ca(1.5 equiv)THP(4.0 equiv)1.5mL jar(stainless)5mm ball×2(stainless)ball milling(30Hz)60°C(internal)60min(isolated yield)MeMe63%77%(52%)Grignard試薬合成後の様子PhMgBropening jarone-potPhball milling(30Hz)60min, in airArIAlkylPh77%(64%)OHPhPhArAlkylNMR yieldMeMeMeMeMe44%金属Ca行しないが、ヒートガンを用いた120℃の反応では、わずか5分で反応が完結した(転換率>99%)。ボールミルによる高濃度と高温がこの高速反応を実現したと考えられる。他の難溶性基質についても調査したところ、溶解度が10-5M台の難溶性化合物は溶液系ではまったく反応しないのに対して、ボールミル反応ではカップリング反応が進行することが明らかになった。この研究によって、溶媒に溶ける基質に限定されたこれまでの有機合成化学を難溶性化合物へと対象を広げることがで きた。5. Grignard反応剤のメカノ合成 Grignard試薬は、Victor Grignardによって19世紀の終わりに開発され、100年以上も使われ続けている重要な反応剤である。この試薬は通常、不活性ガス雰囲気下で、脱酸素・乾燥させたTHF(Tetrahydrofuran)などのエーテル系溶媒にマグネシウム金属を懸濁させ、そこへ有機ハロゲン化物の溶液をゆっくり滴下させて合成する。この反応剤は、幅広い化合物に対して、求核的に作用する優れた反応剤であるが、基本的な合成方法は100年以上変わっていない。このGrignard試薬をメカノケミカル条件で合成しようとする試みは、これまでに何度もなされてきたが、汎用性のある条件は見つかっていなかった。筆者らは、反応条件をスクリーニングした結果、マグネシウム金属に対して2から3当量のTHFを添加すると、ペースト状Grignard試薬を得た(図5)8)。この反応剤は、これまでの方法でつくられたGrignard試薬と遜色ない反応性を示す。6. 有機カルシウム試薬の合成 カルシウムはマグネシウムと同じアルカリ土類金属であり、有機ハロゲン化物と反応して、Grignard試薬に類似した求核的な反応剤をあたえることが知られている(heavy-Grignardとも呼ばれる)。しかし、カルシウム金属の反応性がマグネシウムよりも低いために、有機ハロゲン化物と反応させるには、特別な活性化(昇華・液体アンモニアによる処理)が必要であった。ボールミルを用いることで、カルシウム金属表面の機械的な活性化が行われ、これまでの方法に比べて簡便に有機カルシウム試薬を発生させることができた(図6)。この方法で発生させた芳香族有機カルシウム試薬は、脂肪族ハロゲン化物と選択的に反応し、還元的クロスカップリング反応が可能となった9)。7. メカノケミカル高速Birch還元 Birch還元は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を用いた芳香族化合物の還元反応であり、安定で反応性の低い芳香環を、効率よく脱芳香族化するためのよい反応である。しかし、反応性の高い金属を、不活性雰囲気下で事前に低温で液体アンモニアに溶解させる必要があり、そのセットアップの大変さやアンモニアの毒性から、実験室的にも工業的にも実施が簡単な反応ではない。筆者らはメカノケミカル化を検討した結果、金属リチウム、反応基質、添加剤のアミンを空気下でボールとともに反応ジャーに入れ、室温で反応を行うと、多くの基質においてわずか1分で反応が完結し、収率よく還元
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