MEDCHEM NEWS Vol.34 No.2
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(b)(a)NH78%NH84%tBuONH73%N87%NHN90%NClHN3TBSOHN3TBSOHN3TBSOtBuOCl4. 分子内1,5-HATを利用したペプチド側鎖の95図3  N-クロロペプチドを経由するデヒドロアミノ酸構造導入法と大環状ペプチドへの応用Cl-N-C-Hの二面角:178°HN収率キヌクリジン(触媒量)塩基0℃キヌクリジン電子豊富な芳香環ClClMePhthNCO2MeMeN-クロロペプチドの結晶構造(c)OOOOOOOONONONOOONONOONONONOOOONNNNONNOOONONNOOOOONONONOONOOONONNOPhthNCO2MeMeEtNEtEt20%toluene, rt71%HNHNHNTrtHNOAsnPhthNOMeMeMeHNTyrPhthNOMeMeMetoluene, 0℃;Na2SO346%BocNTrpPhthNOMeMeMeHNHN酸側鎖を良好な収率でΔAA構造へ変換可能であったが、特にN-クロロ化段階で強力な酸化条件を用いているにもかかわらず、チロシンやトリプトファン残基に含まれる電子豊富な芳香環があっても問題なく反応が進行したことは特筆に値する(図3b)。 さらに、本法は疎水性大環状ペプチドの変換にも利用可能である。シクロスポリンAは11残基からなる大環状ペプチドで、水酸基を含む異常アミノ酸側鎖を除いて反応性官能基は皆無である。その骨格に対して、本法を用いることで立体的に空いているアラニン残基周辺の主鎖アミドが優先的にN-クロロ化され、続く塩基の添加によりΔAA構造の導入に成功した(図3c)。近年、10残基程度の疎水性側鎖からなる大環状ペプチドが経口投与も可能なドラッグライクなペプチド化合物として注目を集め始めているが5,6)、本結果はそのような大環状ペプチドに対してΔAA構造を導入した初めての例であり、N-クロロペプチド法がドラッグライクな疎水性大環状ペプチドの変換に極めて有効な手法であることが実証された。 つづいて、N-クロロペプチドを経由するペプチド側鎖のC(sp3)-H官能基化についても検討した(図4)。C-H官能基化は多彩なペプチド側鎖に官能基を導入するうえで最も魅力的なアプローチであり、最近では求電子的反応剤による水素原子移動(HAT)を利用したラジカル反応も盛んに研究されている。しかし、ペプチド側鎖中のC-H結合は立体的・電子的に分子間HAT反応に対する活性が低く、幅広いペプチド側鎖に利用できる手法は皆無であった。筆者らは、N-クロロペプチドを経由した分子内1,5-HAT反応を利用することで、従来のラジカル法で低反応性であった第一級C-H結合を含む幅広いペプチド側鎖のC-H結合をγ/δ位特異的にクロロ化できると期待した。そのような着想に基づき、筆者らは、N-クロロジペプチドを用いた反応条件のスクリーニングを行い、ヨウ化銅と4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(Ph2Phen)を触媒として用いた際に、高収率で所望の側鎖γ位C-Hクロロ化体が得られることを見出した(図4a)。本法は幅広いオリゴペプチドに適用可能であり、既存法では合成困難だった天然物中の側鎖クロロ化ペプチドフラグメントの合成およびそれに基づく側鎖構造の立体配置の推定にも成功した。 さらに合成した側鎖クロロ化ペプチドがさまざまな誘導体化に利用できることも実証した(図4b)。側鎖クロロ化ペプチドのC-Cl結合は主鎖両末端の脱保護・縮合条件で一切反応することなく、通常のペプチド伸長操作において安定に存在できる構造であることが示された。一方で、特定の条件に付すことでC-Cl結合は他の官能基の導入の足掛かりとして利用可能であり、例えば種々の求核剤との反応で対応する置換体をそれぞれ良好な収位置特異的C-H官能基化7)

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