84TNAP、ALPIのいずれについても活性の高い分子種と低い分子種の両者の存在が観察された。Recombinant proteinsBlood samplesFigure 4 血液中のALP活性の二相性の観察 1/3000 diluted serum 様な酵素種に適用する研究展開を図った。はじめに、 名古屋市立大学の中川秀彦先生、川口充康先生らとの 共同研究として、ectonucleotide pyrophosphatase/phosphodiesterase(ENPP)という核酸やリゾリン脂質の代謝を担う酵素群の活性を検出する蛍光プローブを用いた1分子酵素活性計測系の構築を行った。ENPPは7種類のサブタイプの存在が知られているが、これらのうち血液中に存在するのは細胞外放出型の酵素であるENPP2(autotaxin)のみであると考えられていた。しかしながら、これらに対する蛍光プローブを用いた血中の1分子酵素活性計測を行った結果、ENPP1、ENPP3に相当すると考えられる酵素活性を有する分子種がごく少量ながら検出された。ENPP2の活性変化が膵臓がんにおいて重要な役割を果たすという報告に基づき、膵臓がん患者由来の血漿サンプルを用いてこれらの酵素群の1分子活性計測を行った結果、期待に反してENPP2由来と思われる活性種には変化が見られなかった。一方で、ENPP3に相当すると思われる活性種が膵臓がん患者血漿中で有意に増加している様子が見出された。ENPP3は好塩基球の活性化に関係することが知られている酵素であり、これは膵臓がん組織における好塩基球の特異な活性化19)を反映した変化ではないかと考えている。近年、免疫応答におけるENPP3の活性制御やその生理的役割についての新たな理解が得られてきており20)、本結果についてもより詳細なメカニズムの解明が待たれるところである。 このように、新たな1分子酵素活性検出系を開発することで、疾患と関わる血液中の酵素活性異常に関する新たな知見が得られうるようになってきた状況を受け、これをより網羅的に実施する実験プラットフォームの構築へと研究を進めた。ここでは特にprotease/peptidaseに着目し、その基質をライブラリ的に開発することを目指した研究を行った21)。従来の蛍光プローブ開発においては、1つずつのプローブを複数ステップの手動合成で行うために、多数のプローブを合成して興味深い活性をスクリーニングするenzymomics研究の実施には、依然として高いハードルがあった。これに対し、synthesis-based on affinity separation(SAS)22)と呼ばれるライブラリ構築法を参考に、広島大学の小池透先生らとの共同研究として、ホスホン酸を分子内に有するプローブ母核を用いてプローブ化反応を行い、Phos-tagと呼ばれるZn2+錯体を用いて反応液中からアフィニティー精製を行うことで、簡便にアッセイに利用可能な純度の蛍光プローブを得ることができる方法論を構築した(Figure 5)。これにより、プローブ合成→血液中の1分子酵素活性計測→設計へのフィードバック、というサイクルを回すことで、特に膵臓がん、大腸がん患者由来の血漿サンプル中の興味深い活性異常を見出すことに成功した21,23)。 一例として、血液中のdipeptidyl peptidase 4(DPP4)の活性について1分子酵素活性計測系を用いて解析を
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