MEDCHEM NEWS Vol.34 No.2
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83Collab. prof. Hiroyuki Noji(Grad. sch. Med., Tokyo), and prof. Rikiya Watanabe(RIKEN)Biosample(Blood)チャンバーに封入される1分子ごとの酵素を複数色の蛍光プローブに対する反応性の違いによって見分けて「数える」Figure 3  血液中の1分子酵素活性を「数える」方法論の開発 マイクロデバイス中に複数色の異なる蛍光プローブをロードすることにより、反応性の違いによって異なる酵素種を見分けて 数えることを可能にした。Microdevice(200,000 chambers, <50fL)Fluorescentprobes100μmるphosphataseのサブタイプ別の1分子計測を行うことを可能とした14)。 血液中の「総」ALP活性の異常は、主な由来臓器である肝臓や骨などの状態変化を反映することが知られており15)、現在行われている生化学検査の検査項目にもなっている。一方で、ALPは小腸由来、胎盤由来など由来臓器の異なるさまざまなサブタイプが存在する。これらの異なる酵素種の活性変化は電気泳動の分離などによってタンパク質種を分離することで検出可能であるが、その精度はさまざまな分子種を精確に区別する目的において決して高いものとはいえない。さらには電気泳動を 用いた活性計測では検出できないレベルのマイナーなphosphatase種も血中には数多く含まれると考えられる。これに対し、上記のアイデアに基づいて1分子レベルのphosphatase活性を3種類の異なる蛍光波長を有する蛍光プローブに対する活性の違いによって分離する1分子計測系を構築したところ、血液中に存在する多様なphosphatase種を1分子ごとに分離して観察できることが確かめられた(Figure 3)。例えば、肝臓、骨由来のALPであるTNAPと小腸由来のALPIは異なる遺伝子に由来するが、これらの高い相動性を有する酵素についても、複数の蛍光性基質に対する反応性の違いによって異なる色調を示すスポットとして検出することが可能であり、リコンビナント酵素を用いて得られた分離パターンは血液中のTNAP、ALPIの分離検出においてもよく再現した。加えて、血液中にこれらの2つの活性に分類されない特異なphosphatase活性を有する酵素種が多様に含まれている様子も明らかになった(Figure 4)。 各種疾患におけるこれらのパターンの変化について理解する研究は現在も進行中であるが、1つの興味深い知見として、血液中のTNAPやALPIなどのALPは、 1分子レベルの酵素活性としてみた際に、活性が高い分子種と低い分子種に分かれる様子が観察された。同様の結果はリコンビナントの酵素においてもすでに報告されているものであったが16,17)、血液中に存在する酵素においてもこれらのパターンが見られたことは、これらの変化が生理的に起こり得る何らかの違いを反映したものであることを強く示唆する。このメカニズムについては、活性部位にZn2+イオンが正しく配位できない非活性の分子種が生じる可能性16)や、活性部位近傍のアミノ酸側鎖のローカルな構造変化を反映したものであるといった説18)が提唱されている。いまだそのメカニズムは仮説の段階ではあるが、他のモダリティーでは読み取ることが難しい分子種の違いに関する変化を、1分子の酵素活性解析によって見出すことができ、タンパク質の状態の違いの理解につながる可能性を本現象は示しているといえる(Figure 4)。3. 多様な酵素活性の検出に向けて このように、血液中のタンパク質機能を1分子レベルで解析する方法論が確立されたことを受けて、本法を多

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