71写真2 考えを整理するときによく行った公園3-2.チーム・組織としての多様性 多様な研究者が集まってチームを構成しているので、チームとしても多様性をもっているのは当然と思われるであろう。もちろん、そのとおりではあるのだが、「個人としての多様性」を有機的につなげることによって「チームの多様性」をさらに高める仕組みがあったように感じる。 先にも述べたとおり、1 on 1 meetingではPIと個人対個人でディスカッションする。この段階では、各研究者の価値観をベースとして研究内容を徹底的に掘り下げていく。次に、この過程で得られたアイデア・意見を チームミーティングにおいて、メンバーとディスカッションする。この段階では多様な考えを取り入れ、元のアイデアをブラッシュアップする。このようなステップ力していた。すなわち、国籍や性別、年齢といった意味での多様性とはまったく異なる「専門の多様性」が存在したのだ。そして、これが「個人の多様性」につながっていた。 加えて、彼らは専門性の幅を広げることにも非常に貪欲であった。チームミーティングの終了後には、生物系の研究者が化学系の研究者のところにきて、化合物の構造について議論したりする。その逆も当然あり、化学系研究者が評価系について生物系研究者とディスカッションしていたりもした。ミーティングスペースの壁はホワイトボードのように使うことができ、文字や化学構造、スキームなどを書くことができたが、壁の至るところに議論した形跡がよく残っていた(形跡を消さないままその場を去るところは海外っぽいなと苦笑した記憶があ る…)。いずれにしても、いつ実験をしているのかと余計な心配をしてしまうくらい研究者同士でよく議論し、自分の知識を広げようとしているように見えた。こういった気構えが「個人としての多様性」を育む要因の一つとなっているのであろう。 もちろん、1つの分野を突き詰めることと複数の分野を学ぶことについては、それぞれ一長一短があると思われる。ただ、筆者自身は必要に迫られない限り他分野を積極的に学ぼうとしなかったこともあり、研究に対して複数の視点をもつ努力が足りなかったと反省した記憶がある。このような思いもあって、少しでも自分の知識・経験を広げるため、適切なトレーニングを受けたうえで継代培養にチャレンジしたりと、未経験のことに積極的に取り組んだ。を踏んだ後に、PIが全体を俯瞰し、そのときの状況を踏まえてチームとしてベストのアイデアを選択していた。 筆者は、ミーティングを通じて個人のアイデアがより良いアイデアへと成長していく状況を何度も目にした。読者の多くにも、周りの研究員とディスカッションすることでより良いアイデアが得られた経験が必ずあると思う。このような機会、すなわち研究員同士が有機的につながる仕組みがしっかりと構築されていた。 さらに、「チーム・組織の多様性」のベースとなる 「個人としての多様性」を高めるサポートも積極的になされていた。チームを超えてより多くの研究者とディスカッションできるように研究所全体での研究報告会が定期的に行われていたり、外部研究者による講演会も頻繁に開催されていた。筆者も自分が興味をもっている分野の先生と知り合うことができたし、海外の製薬会社でメディシナルケミストとして働いていた研究者(当時はリタイアして自分でコンサルティング業務をする会社を立ち上げていた)と良い化合物を見出すためのアプローチについてディスカッションしたり、といくつもの有意義な出会いを経験することができた。 このように、赴任先の研究所には国籍や人種といった多様性だけが存在しているわけではなく、複数の専門性から成立する「個人としての多様性」も存在していた。また、各研究者は日々それを高める努力をしており、チーム・組織はそのサポートと彼らを有機的につなげる仕組みにより、「チーム・組織の多様性」を高め、新たな発見や問題解決につなげていると感じた。
元のページ ../index.html#15