8. 実用化に向けて~ロボットの活用~66写真1 多軸ロボットが配置されたアイソレータ写真2 容器取り出し作業れている場合には、その作製に用いられる培地成分にも適用される。したがって「生物由来原料基準」で管理されたメーカーの培地成分(原料)しか使用できない。そこで当社では、各成分の製造工程に用いられる原材料が「生物由来原料基準」に適合していることを、各メーカーに問い合せ、場合によっては製造現場での製造記録での確認を行った。このように「生物由来原料基準」への対応には多大な労力を要したが、高い増殖能力を有し、ロット間差の極めて少ない無血清培地を開発することができた。この培地を用いることで均質で高品質な再生医療等製品の製造が可能となった。 細胞培養は、通常、培養士の手によって行われる。ある程度経験を積んだ培養士でも作業に時間がかかり、新米培養士の場合には、教育訓練により手順を習得して、安心して任せられるようになるのは早くても数カ月かかる。また培養士によって、わずかな手技の違いにより細胞の増殖率が異なることや、同じ培養士でも培養する日が違うと、できあがる細胞の質、性能にわずかな日間差が生じうる。 さらに、他家細胞の場合、実用化に向けては、研究レベルとは比較にならないほど大量の細胞が必要となり、人の手で行うことは現実的には難しい。 細胞を大量培養するには、平面接着培養用の大型培養プレートあるいはバッグ型培養容器を用いるか、または培養槽を用いた浮遊培養等、いくつかの方法がある。 当社では人の手による平面接着培養を小型の培養プレートを用いて行ってきた。すでに治験に向けての前臨床試験(安全性評価、有効性評価)は、この人の手による培養によって作製した細胞を用いていたため、治験もこの細胞を用いて開始した。細胞の同等性の観点から、大きく培養法を変更することは、その性質を変えてしまうリスクがあると考え、培養士の動きをそのまま模倣することができる機械での細胞製造を計画し、自動培養・保存装置を開発した。 培養士の動きを模倣させるために単腕多軸ロボットを採用し、培養士の動作をビデオ撮影し、そのままの動きとなるようにプログラミングしてロボットに動作させることとした。 培養エリアにグレードAの清浄度の環境で細胞培養を行うCO2インキュベーターと無菌状態で細胞播種、培地交換、細胞観察、攪拌、分注、遠心、細胞回収、計数、除染等を自動で行う多軸ロボットと顕微鏡、遠心機等を設置した大型アイソレータ、器材搬入のためのパスボックスを配置し、過酸化水素ガス(H2O2)発生装置を装備した(写真1~4)。 培養の操作手順に従って多軸ロボットの動作をプログラミングし、「各種容器の把持」「顕微鏡でのフラスコ底面の細胞培養状態の観察」「培地交換」「培地・試薬等の液分注」「攪拌」「遠心機への搬入・搬出」「細胞計数」 「細胞の計量・充填」等を自動化した。 本自動培養装置はグレードCの清浄度の環境エリア内に設置して運用可能であり、グレードBの清浄度の環境にグレードAの清浄度の安全キャビネットを入れている。人の手により培養する場合に比べて、環境維持、管理コストを抑えることができ、またロットサイズを大きくすることができるので、製品あたりの品質試験コストを大幅に削減できる。
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