かねこ ひろゆき1988年東京大学工学部卒業、1996年マサチューセッツ州立大学大学院コンピューターサイエンス学科修士課程修了。1988年三菱電機株式会社入社、2000年科学技術振興事業団入団。基礎研究から産学連携まで多数の研究開発ファンディングプログラムの設計・運営に携わり、2021年より現職。MEDCHEM NEWS 34(2)57-57(2024)57年4回2、5、8、11月の1日発行 34巻2号 2024年5月1日発行 Print ISSN: 2432-8618 Online ISSN: 2432-8626国立研究開発法人 科学技術振興機構理事金子 博之 国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)は、わが国の科学技術・イノベーション政策の中核的な実施機関として、研究開発のファンディング(資金配分)を行っています。対象とする研究分野は限定することなく多岐にわたりますが、昨今は特に研究開発力の強化の必要性から国際的なトップサイエンスの支援を重要課題としております。 JSTが伝統的な学問分野を越境している背景には、社会問題の複雑・多重化に加えて、世界における科学技術の目まぐるしい進展があるでしょう。生成AIを代表とする情報技術の台頭は、私たちの日常生活や産業構造だけでなく研究開発のあり方を大きく変えました。いまや研究開発の将来像はマテリアルズ・インフォマティクスやAI創薬を抜きに語るのは難しいという指摘を踏まえると、創薬・化学分野は変革が著しい代表格といえるかもしれません。このような切り口で、JSTの具体的取り組みを2つご紹介します。 まず、挑戦的な基礎研究の例として、戦略的創造研究推進事業ERATOの「前田化学反応創成知能プロジェクト」をご紹介します。ここでは、計算化学と数理情報学を基盤に、量子化学計算、情報科学、さらにはマテリアルズ・インフォマティクスを統合することで、化学反応における「原子の動きの全貌」を予測し、有用な未知反応を次々に提案する「化学反応創成知能」の創出を目指しています。研究グループは、計算・設計と実験・合成が連携できるよHiroyuki KanekoVice President,Japan Science and Technology Agency(JST)うな構成となっています。最近では、量子化学計算による有機化合物の出発原料の高精度予測や、化学反応経路の幅広い活用・普及に向けたデータプラットフォームの開発・無償公開といった研究成果も得ており、創薬・化学分野の新たな突破口を切り拓きつつあります。 次に、AIを軸に次世代の人材育成に主眼をおいた新たな取り組みをご紹介します。ここでは、AIそのものをターゲットにしている研究者に止まらず、AI分野を用いた新興・融合領域の研究者も対象にすることで、AIを起点に研究発展が拡張していくことを狙っています。例えば、現在は有機合成に取り組んでいる優れた若手研究者が本事業の公募に誘発され、AIと組み合わせて創薬にチャレンジする研究(「創薬×AI」研究)を構想・提案し、研究活動に最適な交流や異動を通して成長しながら、新興分野の成果を創出していく、といった例が期待されます。 このように、JSTは、それがなければ起こりにくかった挑戦や連携を誘発し、それによって科学の発展と政策課題の解決の両方を実現していく立場にあります。上記以外にも、創薬・化学分野の皆様の参画が期待される事業が多々ありますので、ぜひともご興味をもっていただければと思います。 JSTは、今後も社会・政策と科学の結節点としての役割を果たすべく、研究者の皆様が独創的な研究構想の実現にチャレンジできるよう努めてまいります。Copyright © 2024 The Pharmaceutical Society of Japan公益社団法人 日本薬学会 医薬化学部会NO.2Vol.34 MAY 2024創薬・化学への貢献:JSTの取り組み基礎的な研究開発による
元のページ ../index.html#1