MEDCHEMNEWSVol34No1
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4. おわりに50写真2  サンテック・シンガポール国際会議展示場Therapeutics 樫田俊一CEO)student2012年 東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻博士課程修了同 年 第一三共株式会社入社AUTHOR写真3  Annual Meeting of the RNA Societyレセプションの様子( 左から、藤田医科大学 前田明教授、筆者、xFOREST シーも利用したが、東京23区ほどの国土に560万人を抱えるシンガポールでは、交通渋滞を避けるため車の所持に厳しい制限があるそうで、広い道路に数台の高級車しか走っていない独特な光景が印象的であった。 今回は特にNanopore社のロングリードシーケンサーを活用した研究の多さが目立った。これまで多用されてきたショートリードシーケンサーと異なり、非常に長い核酸でも断片化することなく配列を読むことができ、スプライシングの異なる転写産物を1分子ごとに区別することができる。また、核酸がポア(穴)を通るときの電流波形で塩基を同定することから、DNAに変換することなくRNAを直接読むこともできる。これらのユニークな特性をもつ本技術がRNA研究に大きなパラダイムシフトを起こしつつあることを実感した。例えば、スペインCenter for Genomic RegulationのNovoaらや東京大学の鈴木勉らをはじめ、複数の研究者がRNAの修飾を直接解析する手法を発表していた。また、Genome Institute of SingaporeのWanらやヘルムホルツRNA感染研究所のBohnらは、RNAの構造を解析する手法であるSHAPE-MaP法やDMS-MaP法をナノポアで実施し、1分子ごとのRNA構造を調べる技術へ昇華していた。いずれの場合も修飾塩基の電流データから機械学習させる必要があるが、RNA標的低分子創薬を進めるうえで使いどころが増えていくことが予想される。 RNAの3次元構造解析についても進展があった。数百mer程度のRNAは、NMRで解析するには長すぎ、X線のための結晶化は難易度が高く、単粒子CryoEMを測定するには小さすぎる。Colorado大学のLangebergらは、分子量が大きく構造的な揺らぎの少ないTetrahymena ribozymeと興味のある配列を融合させることで、全体としてCryoEMのデータを取得しやすくするアプローチを確立した。この手法ですでに7種ものRNAについて構造解析に成功した。 RNA Societyの講演の中でUCSDのGene Yeoが引用していた、ノーベル賞受賞者Sydney Brennerの言葉が印象に残った。“Progress in science depends on new techniques, new discoveries and new ideas, probably in that order”継続的に創薬アイデアを生み出すためには、近視眼的にならず新しい技術へのアンテナを張り、実際に使ってみることが重要だ。RNA標的低分子創薬を志す研究者にとって、アイデア創出につながる最先端の技術やトピックに触れることのできる貴重な2学会であった。参考文献 1) 日下真一, MEDCHEM NEWS, 31, 25‒29 (2021) 2) Chen, Q., et al., Nucleic Acids Res., 50, e67 (2022)中村晃史(なかむら あきふみ)2007年 東京大学工学部化学生命工学科卒業2009~2010年 The Scripps Research Institute, visiting Copyright © 2024 The Pharmaceutical Society of Japan

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