MEDCHEMNEWSVol34No1
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北里環境科学センター 所長 最初に、なぜ、東京薬科大学史料館に足を運んだかをご紹介したい。ファルマシアの2022年9月号に東京薬科大学薬用植物園に関する三宅克典先生の記事が掲載されており、早速、ネットから「東京薬科大学散策マップ」を入手したところ、本史料館はゴシック体で記載されていて、東京薬科大学が力点を置いていることがわかった。そこで館長 山田陽城先生のご説明の下、早速、史料館を見学させていただいた。 東京薬科大学は2020年に創立140周年を迎えたが、史料館では大学の歴史のみならず、わが国の薬学、薬剤師等の広い領域にわたる歴史史料が展示されている。特に、藤田正方により1880年に創設された前身である東京薬舗学校の設立当時のことから、東京薬学校(1883年)、私立薬学校(1888年)、東京薬学専門学校(1917年)への変遷における下山順一郎、丹波敬三、池口慶三ら三校長の活躍を詳細に学ぶことができる。 すなわち、若くして他界した藤田が遺した著作物は秀逸で、医師であり物理学にも精通していた藤田は、薬剤師教育の実現に奔走した。私立薬学校の初代校長を務めた下山は、ストラスブール大学でFriedrich A. Flükigerに師事し「Flore Pharmacia!」という言葉を贈られた。そこで建学の精神として「花咲け薬学」を定め、この精神が現在の校章に活かされている。東京薬学専門学校の初代校長を務めた丹波は、サルバルサンの国産化に成功し、二代校長の池口は、売薬法および指定薬品制度を定め、東京薬科大学発展の基盤を築いた。 大学や薬学の歴史に留まらず、卒業生の輝かしい歴史を学ぶことも魅力に満ち溢れている。例えば、わが国最初の女性薬剤師である岡本直栄や、薬局経営をする傍ら霞ケ浦の自然を守る活動に尽力した奥井登美子の活動等も把握できる。さらに、合成遺伝子により世界ではじめて大腸菌でヒトタンパク質を生産することに成功した板倉啓壱、トルコにて民間親善大使として親しまれた山田寅次郎、京都議定書の締結や地球温暖化防止京都会議の開催に尽力した元環境庁長官 石井道子ら、卒業生の活躍も一度に知ることができる。 さらに本史料館はいわゆるパネルに貼られた文字と映像等の資料のほか、歴史的な「モノ」の展示も大変豊富であり感銘を覚えた。すなわち、当時の学生の几帳面なノート、簡易式水素イオン濃度測定装置、錠剤を正確な数で計り取る丸い穴の空いた木製のスプーン等を大変興味深く拝見させていただいた。 以上、すでに社会でご活躍されていらっしゃる方も、これから社会に出られる方も、薬に関連する仕事に携わるなら、ぜひ一度は東京薬科大学史料館をご見学いただけると大変良い機会になると感じている。また同史料館ではネットにて「東京薬科大学3Dバーチャル史料館」が公開されている(東京薬科大学のウェブサイトのトップページからアクセス可)ので、一度ぜひご覧いただくことをお勧めしたい。味戸慶一(あじと けいいち)1982年 慶應義塾大学大学院工学研究科応用化学専攻修士課程修了同  年 明治製菓株式会社中央研究所1985年 微生物化学研究所化学第二部(池田大四郎)1991年 工学博士(慶大竜田邦明)1994年 米国The Scripps Research Institute 2002年 明治製菓株式会社化学研究所所長2010年 同社薬品知的財産部長2019年 現在に至る(K. C. Nicolaou)写真1 東京薬科大学史料館 AUTHOR MEDCHEM NEWS 34(1)47-47(2024)47Copyright © 2024 The Pharmaceutical Society of Japan味戸慶一Coffee Break薬に関連する仕事に携わるなら一度は行きたい東京薬科大学史料館

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