MEDCHEMNEWSVol34No1
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−O(Ser)+N(CH3)3OOOOOOO+OOO+N(CH3)3+N(CH3)3−O+H2N+N(CH3)3+N(CH3)3−O(Ser)H3CH3Cc)電子効果と立体効果によるベタネコールのAChE抵抗性発現機序a)どうしてベタネコールはAChエステラーゼ抵抗性?アセチルコリン(ACh)b)c)電子効果図1  a)アセチルコリン(ACh)とベタネコールの構造、b)AChの加水分解機構、 アセチルコリンエステラーゼアセチルコリンエステラーゼAChエステラーゼ抵抗性AChアゴニストH3CH2NH2Nベタネコール+N(CH3)3立体効果OHCH3CH3HOCH344の創薬のみならず、臨床薬学の将来に大変重要である。 薬の有機化合物としての化学構造が、薬効、毒性、体内動体も、一義的に決定するのである。よって、薬が生体を制御する有機化合物であるという観点から、薬理活性を化学構造から理解することが、創薬研究者のみならず、薬剤師を含めた薬学出身者の素養であるべきで ある。3. 薬理活性の化学構造からの理解 薬理活性を化学構造から理解する簡単な例を以下に 2つ紹介する(多くの読者には自明な内容と思われ恐縮ですが、学生への説明用事例として記載します)。 先ず、アセチルコリン(ACh)受容体アゴニストのベタネコールを取り上げる。ベタネコールはアセチルコリンエステラーゼ(AChE)抵抗性のアゴニストとして、臨床利用される。AChE抵抗性である理由を化学構造から考えたい(図1)。AChEはセリンエステラーゼであ り、酵素のセリン水酸基のAChカルボニル炭素への求核攻撃を経て加水分解が進行する(図1-b)。ベタネコールにおいては、カルボニル炭素の隣接位に窒素が存在し、その孤立電子対がカルボニル二重結合と共役するために、カルボニル炭素の反応性(求電子性)がAChに比べて減弱する。さらに、カルボニル炭素のβ位炭素に結合しているメチル基が、セリン水酸基がカルボニル炭素への求核攻撃する際に立体障害となる(図1-c)。すなわち、有機化学における基本的効果である電子効果と立体効果によって、ベタネコールはAChE抵抗性を示すものと推定される。 もう一つ、アドレナリン(AD)とADβ受容体選択的アゴニストであるイソプロテレノール(IPT)を取り上げる。ADは、αおよびβ両受容体アゴニストなのに、IPTはどうしてβ受容体選択的アゴニスなのだろうか? その理由を図2に示す。ADもIPTもβ受容体に収容されアゴニストとして機能する(図2-b)。一方、α受容体に対しては、ADは収容されるものの(図2-c)、α受容体ではADのN-メチル基を収容する部位が狭いために、IPの嵩高いイソプロピル基は立体的に収容されない (図2-c)。IPTがβ受容体選択性を示す理由はこのように考えられる。 以上のように、薬の薬理活性を化学構造に基づき、有機化学の理論で考察できるのである。このような、有機化学の薬学的使い方を紹介・教示することで、薬理活性を化学構造から理解することが可能であって、“薬学に有機化学が必須である”ことを学生が納得するのではなかろうか。薬理活性を化学構造から理解する他の例については、拙著1)を参照願いたい。

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