5’ZnAPC6. おわりに(a)(b)5’選択的結合選択的切断光照射選択的発現抑制タンパク質細胞死(MCF-7)ZnG4NRAS mRNAAUGAUGNRAS41図7 (a)ZnAPCの構造と(b)NRAS mRNAの四重らせん構造を狙った分子標的型光線力学療法の模式図作用によって非特異的な結合をするのに対して、負電荷化合物は二重らせん構造と静電的に反発する。これらのことから、核酸の四重らせん構造との結合選択性を獲得するためには、正電荷ではなく負電荷(もしくは無電荷)の化合物も有用であることがわかった9)。 重要なことに、単量体のフタロシアニンは、680nm付近に極大吸収をもち、中心金属イオンが、Zn2+、Si4+、An3+などの場合には、光感受性(光照射による活性酸素の産生)が向上することが知られている。このことを利用して、Zn2+が配位したアニオン性(スルホン酸)フタロシアニン(ZnAPC:図7a)を用いて四重らせん構造を光照射によって切断する分子標的型光線力学療法(PDT)を開発することを試みた。標的分子には標的化が困難な典型的なタンパク質であり、がん進行に重要なNRASを選んだ。NRASをコードするNRAS mRNAの5’-UTRには四重らせん構造を形成するグアニンに富んだ配列があることがすでに明らかにされている10)。 最初に、ZnAPCとNRAS mRNAが形成する四重らせん構造(NRAS四重らせん)の親和性を検討したところ、過剰の二重らせんRNAが存在しても、ZnAPCは選択的にNRAS四重らせんに結合した。さらに、波長680nmの光を照射することで、結合した四重らせん構造を選択的に切断できた。そこで、NRAS発現量が多いMCF-7細胞内でのNRAS mRNAとタンパク質の発現量を検討した。その結果、ZnAPCを添加して光照射を行った場合にのみ、mRNAとタンパク質の発現量が減少した。さらに、光照射後24時間の細胞生存率は5%であった。これらの結果から、ZnAPCを用いたNRAS四重らせんの光切断は、結合した標的を選択的に切断する分子標的型PDTと呼べるものであることが示された(図7b)。興味深いことに、この選択的切断には溶存酸素が必要なく、PDTにおけるタイプⅠ様の切断反応が進行するもので、通常のPDTにおけるタイプⅡ様の機構ではないことが示唆された。実際に、ROSの消去剤の有無にかかわらず、NRAS mRNAとタンパク質の発現量や細胞生存率に変化がなかった11)。このことは、低酸素状態にある腫瘍深部や活性酸素耐性がん細胞でも、PDTを実施できる可能性を示唆するものである。既存のPDTと比較して、分子標的型PDTは、作用機序が明確、標的をうまく設定することで副作用の低減につながる、低酸素状態でも機能するなどの利点をもつことから、疾患関連mRNAのみならずncRNAにも見られる四重らせん構造を標的とできる次世代のPDTとなることが期待される。 核酸を標的にした医薬品開発が精力的に進められている。核酸医薬も核酸を標的にしたものが多いが、デリバリーなどには依然として克服すべき課題も多い。一方、核酸を標的とした低分子薬の開発も注目されている。米国のみならず国内においても、低分子化合物のスクリーニングや標的核酸の立体構造の解明など、独自の技術を
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