K+(b)GGGGGGGGGGGG5. 夾雑環境で安定化する核酸四重らせん構造(a)(G2≦L1≦G2≦L1≦G2≦L1≦G2≦)グアニンに富んだ配列グアニン塩基図6 分子夾雑環境で構造が安定化する核酸の四重らせん構造 構造形成パラレル型Gカルテットフーグスティーン型水素結合アンチパラレル型四重らせん構造ハイブリッド型40(a)グアニンに富んだ核酸鎖が形成するGカルテットと四重らせん構造。(b)パラレル型、アンチパラレル型、ハイブリッド型四重らせん構造。ることがわかった。これらの結果から、前項で示した標準構造と非標準構造に対する分子夾雑の効果は、核酸構造の水和状態の違いによって決定されていることが強く示唆された6,7)。 細胞内環境を模倣した分子夾雑環境で構造が安定化する核酸の四重らせん構造は、テロメアやがん・神経変性疾患の遺伝子発現調節領域に多く局在することから、創薬標的として注目されている。四重らせん構造は4つのグアニン間のフーグスティーン塩基対によって形成される(図6)。4つのグアニン間のフーグスティーン塩基対によってグアニン四量体(Gカルテット)が形成され、中心のO6位にカリウムイオンが配位し、さらにGカルテットどうしがスタッキング相互作用を形成することで、四重らせん構造は高い熱力学的・生物学的安定性を獲得する。グアニンが2~4個程度連続した配列が近接して4回繰り返されることで、分子内で四重らせん構造を形成できる。このような四重らせん構造形成配列は、ヒトゲノム上に数十万箇所存在し、転写されたmRNAやncRNAにも多くの四重らせん形成配列が存在することが知られている。実際に、細胞内でゲノムやRNAが四重らせん構造を形成することが、四重らせん構造の抗体やリガンドによって明らかとされている。四重らせん構造は、複製、転写、翻訳、テロメラーゼによるテロメアの伸長反応の制御因子としての役割をもつことが知られている。 筆者らは、スルホ基を4つ有するフタロシアニンがテロメアDNAの形成する四重らせん構造に結合するにもかかわらず、核酸鎖の大部分が形成と考えられる二重らせん構造には結合しないことを見出した8)。同時に、四重らせん構造とリガンドの複合体形成に対する分子夾雑効果を検討したところ、スルホン酸フタロシアニンを含む負電荷のリガンドは、分子夾雑環境においても複合体形成能を保持することがわかった。その結果、テロメアと結合してテロメアを伸長するテロメラーゼの活性を阻害する機能も保持した。一方、正電荷をもつリガンドは、過剰の二重らせん構造存在下、分子夾雑環境下において、ともに四重らせん構造結合能とテロメラーゼ阻害能が低下した。上述のような複合体形成における水和状態の変化を検討したところ、正電荷リガンドと四重らせん構造の複合体形成が水和反応であるのに対して、負電荷リガンドの場合はほとんど水和に変化がないことが示された。また正電荷化合物は二重らせん構造と静電的相互を狙った分子標的型光線力学療法
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