M+sboKnH2O(a)核酸構造形成の模式図とその平衡式(式1)と式1からの誘導式(式2,3)、(b)水の活量(aw)と核酸構造の平衡定数(Kobs)の相関関係。4. 核酸構造安定性に及ぼす分子夾雑効果の l(a)(1) DNAU DNAF+ΔnWWater+ΔnPEGPEG+ΔnM+M+(2) K0= Kobs aW aCS aM+d lnKobsd lnaW(3)夾雑分子ΔnWΔnCSΔnM+構造形成+ΔnM+(b)安定不安定夾雑希薄PEG=− ΔnW+ΔnPEG図5 核酸の構造形成に伴う水和状態の変化 d lnaPEGd lnaWd lnaM+d lnaWSlope=−Δnwlnaw39とがわかった7)。すなわち、分子夾雑環境にある細胞内では、核酸の標準構造が思いのほか不安定であり、逆に非標準構造が安定であることから、核酸が分子環境に依存した構造多様性をもつ可能性が示唆された(図4)。興味深いことに、四重らせん構造を形成可能な配列は、がんや神経変性疾患に関連する遺伝子の5’および3’-非翻訳領域やイントロンなど、遺伝子発現を調節する領域に局在する。四重らせん構造をはじめとする非標準構造が、ダイナミックに形成と解離を繰り返すことが遺伝子発現の調節に必要であるが、これら疾患の発症や進行には細胞内の分子環境の恒常性の破綻が関与していると考えられる。分子夾雑環境が核酸構造安定性を変化させる分子機構を解明し、核酸の構造安定性を制御することは創薬的観点からも興味深い。 夾雑環境を誘起する分子(夾雑分子)が高濃度に存在することで、溶質や溶媒のさまざまな物性が大きく変化する。まず、分子は所定の体積をもつことを考える必要がある。溶質が高濃度になると分子が占有する体積が系全体の大きな割合を占め、他の溶質が利用できる体積が減少する(排除体積効果)。その結果、分子の実効濃度 (活量)が上昇する5)。一方、高濃度の溶質により溶媒 (例えば水分子)が系内で占める割合が顕著に減少するために、溶媒の活量が減少する5)。このような生体分子の物性に及ぼす溶液特性の効果を検討するために、筆者らは核酸の構造形成に伴う水和状態の変化に注目した。 核酸の構造形成には、水分子をはじめ、カチオン、さらには周辺の分子(夾雑分子)と結合や解離が伴う (図5a)。この反応は、平衡式(1)のように表される。そこから導かれる核酸構造の熱力学的安定性の指標となる見かけの平衡定数(Kobs)とPEGなどの夾雑分子を添加することで変化する水分子の活量(aw)の関係式は、(式2,3)のようになる。この関係から、希薄緩衝溶液に夾雑分子を添加して、awが小さくなった際に、Kobsが直線的に変化するのであれば、式(3)右辺の第2、3項が無視できることとなり、Kobsとawのプロットの傾きから-Δnwを求めることができる(図5b)。ここで、Δnwは構造形成に伴って核酸に結合する水分子の数である。正の傾きが得られれば(夾雑環境で不安定化すれば)、構造形成が水和反応(より多くの水分子を取り込む)となる。逆に負の傾き(夾雑環境で安定化)は脱水和反応(水分子を放出する)であることを示す。興味深いことに、分子夾雑によって不安定化する二重らせん構造におけるKobsとawには直線関係があり、傾きが正となることから、構造形成に伴って水分子を取り込むことが示された。一方、四重らせん構造などの非標準構造では、傾きが負となり構造形成に伴って水分子が放出され分子機構
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