約70%約4×1010(約40 M)約200 mM約96 mM約17 mM約6%約4.6×1062. 細胞内環境について3. 細胞内環境における核酸構造安定性大腸菌高分子(a)核内DNA、RNAなど(c)試験管希薄溶液ヒストンなどのタンパク質、研究対象とする分子図1 (a)核内、(b)細胞質、(c)試験管内の分子環境の模式図 (a)核内と(b)細胞質は分子夾雑環境にあり、(c)試験管内の希薄溶液環境とは大きく異なる。(b)細胞質RNA、リボソームなど細胞骨格などのタンパク質、タンパク質図2 大腸菌内の分子環境極めて多様な生体高分子、低分子化合物が高濃度に存在する夾雑環境にある。ここでの表記は大腸菌の細胞全体を100%としている。重量%塩基対の数遺伝子の数重量%重量%分子の総数約1%4300約17%約3×1064300水グルタミン酸グルタチオン種類重量%分子の数(濃度)総重量%総濃度脂質重量%糖質重量%低分子化合物生体高分子約3%NTP約5〜10 mM約3%約3%DNARNAmRNA分子の数約3〜8×103rRNA分子の数約6×104tRNA分子の数約2×10537 多種多様な分子が、細胞の分裂周期や状態に依存して、濃度や局在を変化させながら、細胞の夾雑な分子環境(分子夾雑環境)をつくり出している(図1)1)。細胞内分子環境は、生化学実験が行われる試験管内の低濃度で均質な分子環境とは大きく異なる。細胞内に存在する分子について大腸菌を例に述べる(図2)2)。大腸菌では、細胞全重量の約30%が有機化合物で、約70%が水である。有機化合物の約55%がタンパク質である。平均分子量からタンパク質の総濃度は約3mMと算出される。DNAとRNAは、それぞれが大腸菌の重量の1%と6%を占める。これは、ヌクレオチド濃度とすると、30mMと200mMになる。また、脂質が3%、糖類が合計で3%であり、残りの約3%は低分子化合物である。最も多く存在する低分子化合物が代謝産物であるグルタミン酸(約96mM)であり、代謝産物の総濃度は約200mM以上にも達する。さらに、プロリン、スクロース、ベタイン、グリシンベタイン、トリメチル-N-オキシド(TMAO)、尿素などが浸透圧調節分子として数百mM程度存在する。純水中の水分子の濃度は56Mであるが、30%の有機化合物が含まれる大腸菌内では40M程度まで減少する。この水分子の濃度は、先の生体高分子や代謝産物を溶解させるに十分ではないことが推測される。実際に、大腸菌内部は、液性が低くガラスのような状態にあり、代謝産物の産生によって、細胞内でも流動性が確保されることが知られている3)。また先述のとおり、細胞内の生体分子は過飽和な状態にあるが、それを溶解させるために、ATP(アデノシン3リン酸)が溶解剤(hydrotrope)として機能していることも報告されている4)。ATPは細胞のエネルギー源であるが、エネルギーを供給するのに必要以上の濃度で細胞内に存在している。その理由は長く不明であったが、生体分子を溶かし込むために細胞内で高濃度に維持されている可能性がある。このような極めて複雑かつ夾雑な分子環境において、生体分子は立体構造を形成し、分子間で結合し、機能を発現する。この分子機構の詳細を解明することは、創薬の合理性を高め、新しい分子設計指針を提供すると期待される。 核酸の安定性を決める因子として、①水素結合、②スタッキング相互作用、③構造エントロピー、④溶媒和 (水和)、⑤対イオン濃縮が特に重要である(図3)。このうち①~③は核酸の塩基配列によって決定される。一
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