〔SUMMARY〕2-picrylhydrazyl(DPPH)、ferric reducing antioxidant power(FRAP)、oxygen radical absorbance capacity(ORAC)などの方法は、これまで広く利用されてきた。 しかしながら、多くの論文が指摘しているように、これらの検出法を用いて見出した阻害剤は、必ずしも想定どおりの結果が得られておらず、ポジあるいはネガの両方の結果が報告されているのが現状である。一方で、動物実験あるいは臨床組織サンプル中に酸化脂質が蓄積している報告が多数あることから、ある種の疾患の原因に脂質ラジカル、酸化脂質が関与することは間違いないであろう。筆者らは、この相反する結果の原因は適切に阻害剤を選定できていないためではないかと考えている。 ここで、原点に立ち戻って考えると、脂質ラジカルは、脂溶性物質である。また、生体内で脂質ラジカルが生成する環境(細胞膜、オルガネラ膜中)も、脂溶性環境である。一方、上記のスクリーニング法は、基本的に活性酸素を含む酸化物との反応をターゲットとしているために、スクリーニング系自体は水溶性環境下で用いられる。当然であるが、活性酸素と脂質ラジカル・酸化脂質は、水と油であり、これらをきちんと切り分けられるスクリーニング手法でなければならない。すなわち、脂溶性環境下で適切に評価できる系が構築されてはじめて、そこで機能する適切な阻害剤の提案が可能になると考えられる。1.はじめに30MEDCHEM NEWS 34(1)30-35(2024)Keyword lipid-derived radicals, oxidized lipids, ferroptosis, repurposing drug山田健一Ken-ichi Yamada*1 脂質、特に多価不飽和脂肪酸を有するリン脂質は、容易に酸化されて酸化脂質となる。近年、これらの酸化脂質が炎症反応や血管新生を誘導するなどの報告が相次いでなされ、酸化脂質が起点となる生体内機能制御あるいは疾患との関連に関する研究が盛んに行われている。特に2012年に、鉄依存的に生成した酸化脂質が誘導する細胞死“フェロトーシス1)”が提唱されると、酸化脂質への注目度はさらに増している。このフェロトーシスは、がん治療への応用のみならず、眼疾患や神経変性疾患、虚血再灌流障害などの複数の疾患の発症に関与しているようである2,3)。すなわち、酸化脂質あるいはその生成機構は、疾患の発症予防・進展を軽減する有用な治療ターゲットになり得ると考えられる。 これら酸化脂質は、脂質ラジカルを起点とする脂質過酸化連鎖反応により生成される。これまで、各種疾患の予防・治療を目指し、脂質ラジカルあるいは酸化脂質をターゲットとした阻害剤探索に向けた研究が精力的に進められてきた。実際に、これまで多くの脂質ラジカルあるいは酸化脂質の測定法が開発され、例えば、diphenyl- 最近、脂質由来ラジカルや酸化脂質が、細胞死(特にフェロトーシス研究)や炎症反応に密接に関与していることが報告され、注目されている。そのため、酸化脂質、特に脂質過酸化反応に重要な脂質由来ラジカルを標的とした阻害剤が、ラジカル捕捉型抗酸化剤(RTA)として、盛んに研究が進められている。そこで本稿では、脂質ラジカルおよび酸化脂質に対する検出・構造解析技術について記載し、RTAに対する新たな化合物スクリーニング系について、さらに最近の知見について概説する。Recently, lipid-derived radicals and oxidized lipids have been reported to be closely involved in cell death (especially, ferroptosis) and inflammatory reactions and have attracted much attention. Therefore, inhibitors targeting oxidized lipids, especially lipid-derived radicals important in lipid peroxidation reactions, also called radical-trapping antioxidants (RTAs), have been actively studied. In this article, we describe the detection and structural analysis techniques for lipid radicals and oxidized lipids and review more recent findings on new compound screening systems for RTA.*1 九州大学 大学院薬学研究院 分子病態解析学分野 Department of Molecular Pathobiology, Faculty of Pharmaceutical Sciences, Kyushu UniversityThe forefront of Oxidized Lipid Research: From Detection and Structural Analysis to Disease Control酸化脂質研究の最前線 ~検出・構造解析から疾患制御へ~
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