H2NT1 = 25 s(H2O, 9.4 T)−13.0−15.7−6.1abcO2)Fast enzymatic reaction:Km = 1.9 mM, Kcat = 255 s−1H2NNMeHNOCOC1)Enough length of T1:57 s(H2O, 3.0 T)APNBinding energy(kcal/mol)Km(mM)kcat(s−1)Recognizedby APN3)Large chemical shiftchange: 2.8 ppm4)High water solubility, 5)Biocompatibility,6)Biostability, 7)High polarization efficiency図4 (a)[1-13C]Ala-NH2の分子設計、 (b)Ala-NH2, Ala-Gly, Ala-Gly-NMe2のAPN結合エネルギーのQM/MM計算値および酵素反応速度定数、(c)Ala-[1-13C]Gly-d2-NMe2の分子設計NH2Me[1-13C]Ala-NH2Ala-NH215.7113MeDDCarboxyl peptidaseDipeptidaseAla-GlyAla-Gly-NMe23.61.932255Me131328aminopeptidase N(APN/CD13)を標的としたDNP-NMR分子プローブを例として、酵素反応性を制御した分子設計について紹介する。APNはペプチドやタンパク質のN末端の疎水性アミノ酸残基(特にAla)を特異的に切断する酵素である。また、この酵素は腫瘍の血管新生や転移に関わるため、腫瘍のバイオマーカーとして知られている18)。筆者らは、2016年にAPN活性を検出可能なDNP-NMR分子プローブとして、[1-13C]Ala-NH2を報告した19)。この分子プローブは、高いAPN選択性と長いT1を志向して設計された。APN活性を検出するための最も単純な構造はAla-Glyのよう なジペプチド構造であるが、ジペプチドはcarboxyl peptidaseやdipeptidaseによって切断される恐れがある。そこで、[1-13C]AlaのC末端をアミド化すること で、分子構造を小さく保ちつつ、C末端側からのオフターゲットによる切断を最小限に抑えた(図4a)。その結果、[1-13C]Ala-NH2は、高いAPN選択性と十分に長いT1(25 s, H2O, 9.4 T)を示し、マウス腎臓破砕液中のAPN活性の検出に成功した。 [1-13C]Ala-NH2は、ex vivoでAPN活性の検出に成功したが、主に1)酵素反応が遅いこと、2)酵素反応前後の化学シフト変化が小さい(1.3ppm)ことから、生体内APN活性の定量的な解析やイメージングには至らなかった。そこで、生体内APN活性イメージングを目指し、酵素反応速度の改善を行った20)。まず、Ala-GlyがAla-NH2よりも高いAPN親和性を示すことに着目し、両基質のAPN認識機構を解析した。QM/MM計算により、APN活性ポケット内におけるAla-NH2とAla-Glyの結合エネルギーを計算したところ、Ala-GlyのGly部位とAPNのE384の相互作用が、Ala-NH2では見られない結合エネルギーの安定化に寄与することが明らかとなった(図4b)。この計算結果に基づき、ジペプチドを基本骨格とした分子プローブの探索を行った結果、Ala-Gly-NMe2がAla-NH2より速い酵素反応を示す構造として見出された。Ala-Gly-NMe2の酵素反応速 度定数は、Km=1.9mM, kcat=255 s-1であり(図4b)、Ala-NH2の値(Km=15.7mM, kcat=113 s-1)と比較して、特にKmは一桁小さい値を示した。また、Ala-Gly-NMe2についても、APN活性ポケット内における結合エネルギーを計算すると、Ala-Glyと同様に、Gly部位が結合エネルギーの安定化に寄与していることがわかった(図4b)。以上をまとめると、Ala-Gly-NMe2の速い酵素反応は、主にAPN親和性の大幅な向上によって達成された。 Ala-Gly-NMe2にさらなる分子修飾を施すことで開発したAla-[1-13C]Gly-d2-NMe2は、十分に長いT1(57 s, H2O, 3.0 T)、および酵素反応に伴う大きな化学シフト変化(2.8ppm)を示した。この分子プローブは、各部分構造がそれぞれ役割を果たすことで、上述(第3項)の1)~7)の制約を満たしている(図4c)。超偏極したAla-[1-13C]Gly-d2-NMe2をMIA PaCa-2担がんマウスに尾静脈投与したところ、腫瘍部位においてAPN活性を選択的に検出することができた。さらに、位置ごとの化学シフト情報を得るchemical shift imagingによって腫瘍部位を撮像した結果、腫瘍内において生成物シグナルの増大が見られた。よってこの分子プローブが、部位特異的なAPN活性の検出に基づく腫瘍診断に応用できる可能性が示唆された。このように、酵素認識機構の解析に基づく緻密な分子設計により、実用的なDNP-NMR分子プローブの開発に成功した。
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