5. おわりに24AUTHORによってその細胞内滞留性を評価した。ショウジョウバエの翅原基(wing disc)のposterior regionにβ-GalをコードするLacZ遺伝子を発現させた組織、および脂肪体(fat body)に1細胞レベルでLacZ遺伝子をランダムに発現させた組織を解剖して、ex vivoで9C15N-JCR- Bn-βGalを処理してイメージングを行った(図3A)。LacZ遺伝子はGFPと共発現するようにしているため、GFP蛍光によってβ-Gal高活性の標的細胞を確認することができ、9C15N-JCR-Bn-βGal由来のSRS信号が得られた領域がGFP蛍光の領域とよく一致していることがいずれの組織においても確認された(図3B, D)。さら に、SRSスペクトル上でもLacZ(+)領域でLacZ(-)領域よりも顕著に強い信号が得られていることが確認された(図3C, E)。以上の結果から、開発した9CN-rhodolプローブが生体組織においてもその標的酵素活性領域を選択的に検出可能な性質を有していることが示唆された。 本稿では、筆者らが最近開発した、凝集体形成によって細胞内滞留性を向上させた新規activatable型ラマンプローブについて紹介した。プローブ母核として見出した9CN-rhodolは酵素反応に伴って、吸収波長の長波長化によるSRS信号のactivateと凝集体形成能のactivateを同時に達成することが可能な点においてユニークである。今後、多色化したラマンプローブによって組織レベルで複数の酵素活性を評価できるようになれば、生命現象のさらなる理解につながると期待される。謝辞 本研究の一部は、日本学術振興会科学研究費補助金溶解動的核偏極法(dissolution DNP) 溶解動的核偏極法は、NMR/MRI分子プローブの感度を向上させる超偏極技術の一種である。超偏極技術の中でも、幅広い分子構造に適用できる点、生体適合性の高い溶液を得ることができる点から、最も頻用されている技術である。本手法では、極低温(数K)・高磁場下において、電子スピンが高度に偏極されていることを利用する。極低温・高磁場条件が保たれている超核偏極装置内において、安定ラジカルと分子プローブの混合溶液にマイクロ波を照射し、電子スピンの高い偏極率を核スピンに移すことで、核スピンの超偏極化を達成する。その後、高温の緩衝液によって高速融解(dissolution)することで、高感度化されたNMR/MRI分子プローブ溶液を得ることができる。 「学術変革領域研究(B)」(20H05724)、科学技術振興機構「創発的研究支援事業」(JPMJFR221M)の支援によりなされたこと、東京大学先端科学技術研究センターの小関泰之教授、理化学研究所の小幡史明チームリーダーとの共同研究成果であることを付記し、ここに謝意を表します。参考文献 1) Puppels G.J., et al., Nature, 347, 301‒303 (1990) 2) Sijtsema N.M., et al., Appl. Spectrosc., 52, 348‒355 (1998) 3) Krafft C., Anal. Bioanal. Chem., 378, 60‒62 (2004) 4) Wei L., et al., Nature, 544, 465‒470 (2017) 5) Hu F., et al., Nat. Methods, 15, 194‒200 (2018) 6) Zhao Z., et al., Nat. Commun., 12, 1305 (2021) 7) Miao Y., et al., Nat. Commun., 12, 4518 (2021) 8) Fujioka H., et al., J. Am. Chem. Soc., 142, 20701‒20707 (2020) 9) Fujioka H., et al., J. Am. Chem. Soc., 145, 8871‒8881 (2023)10) Freudiger C.W., et al., Science, 322, 1857‒1861 (2008)11) Ozeki Y., et al., Opt. Express, 17, 3651‒3658 (2009)12) Nandakumar P., et al., New. J. Phys., 11, 033026 (2009)藤岡礼任(ふじおか ひろよし)2019年 東京大学薬学部薬科学科卒業2021年 東京大学大学院薬学系研究科修士課程修了2023年 東京大学大学院薬学系研究科博士課程中退同 年 現職神谷真子(かみや まこ)2008年 東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了2008~2010年 スイス連邦工科大学ローザンヌ校博士研究員(日本学術振興会特別研究員SPD)2010年 東京大学大学院医学系研究科助教2014年10月~2018年 科学技術振興機構さきがけ研究員 2016年 東京大学大学院医学系研究科講師2019年 東京大学大学院医学系研究科准教授2022年 現職(兼任)谷田部浩行(東京大学大学院工学系研究科)Copyright © 2024 The Pharmaceutical Society of JapanCopyright © 2024 The Pharmaceutical Society of Japan用語解説
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