MEDCHEMNEWSVol34No1
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〔SUMMARY〕1.はじめに:創薬の多様性2. 現在求められている創薬の姿MEDCHEM NEWS 34(1)17-19(2024)17Keyword drug discovery, imaging, analysis, probe, functional molecule*1 東京大学 大学院薬学系研究科 薬品代謝化学教室 教授 *2 東京大学 大学院医学系研究科 生体情報学分野 教授 浦野泰照Yasuteru Urano*1,2 創薬研究の目的は、病気で苦しんでいる患者さんを治して、健康な状態で日々を楽しむことができる未来を提供するための薬剤を開発することである。近年では、その薬剤開発の基盤として、低分子・中分子化合物、抗体医薬、さらには細胞治療やmRNA医薬まで、さまざまな治療モダリティが確立され、新たな概念に基づく治療が実現されてきているが、疾患克服に向けて、どのモダリティに基づく薬剤を開発するかという点が、さまざまな意味で非常に重要である。すなわち、対象疾患の生 物・医学的な特性に合うモダリティであることはもちろん重要であるが、それと同じくらい重要な観点として、疾患の社会的側面・要請に合うモダリティでなければならない点があげられる。創薬研究を行うにあたって、研究の段階からしっかりとこれらの点を考えて計画を立 創薬には、まず疾患要因を細胞、動物個体、患者さんを対象にライブ状態で理解して、次に、その有効な治療ターゲットを発見し、それにいかに摂動を加えて治療を行うかを考えることが重要である。また、現状でアンメットメディカルニーズが高い疾患は、個別化・精密医療をいかに実現するかが重要な課題であり、さらに国民皆保険制度を取るわが国においては、医療経済的な持続可能性も考えに入れた創薬を行う必要がある。以上の観点から、低分子機能性分子や薬剤の開発を軸とする創薬研究には大きな期待が集まっており、疾患のライブ計測・検出はその中心的課題となる技術である。本特集では、さまざまな原理・戦略に基づく技術開発において顕著な成果を上げている4グループに、最新の成果の紹介を中心に解説をお願いした。In drug discovery, it is important to first understand disease factors in the living cells, animals, and patients then discover effective therapeutic targets, and consider how perturbations can be applied to these targets. In addition, for diseases with high unmet medical needs, it is an important issue how to realize personalized and precision medicine. Furthermore, in Japan, which has a universal health insurance system, drug discovery must also take into account the economic sustainability of healthcare. From these perspectives, there are high expectations for drug discovery research centered on the development of small functional molecules and drugs, with live measurement and detection technology of diseases being a central issue. In this special issue, we asked four groups that have achieved remarkable results based on various principles and strategies to comment on their latest achievements.案・遂行し、得られた成果を少しでも早く社会実装し て、患者さんにより良い未来を提供すること、これが我々薬学者に現在強く求められている。 疾患の克服には、もちろんまずその疾患要因を探る必要がある。疾患細胞をさまざまな手法で解析して、その疾患原因を突き止めて、それを取り除くことで治療を達成する薬剤を開発すること、これが創薬の王道である。例えば脂質異常症(高脂血症)は、血中の過剰なコレステロールや中性脂肪によるものであることから、肝臓でのHMG-CoA還元酵素によるコレステロールの生成を抑えることで、多くの場合制御可能であり、この発想からスタチン系製剤(HMG-CoA還元酵素阻害剤)が多数開発されてきた。本薬剤の投与により、高脂血症の患者さんのほとんどは血中脂肪の制御が可能である。 しかし現在の医療において、アンメットメディカルニーズが高い疾患として残っているものは、がんや老化、認知症など、患者さんごとにその要因が大きく異なる疾患であり、患者さんを層別化して適切な薬剤を選択してProfessor, Laboratory of Chemistry and Biology, Graduate School of Pharmaceutical Sciences, The University of TokyoProfessor, Laboratory of Chemical Biology and Molecular Imaging, Graduate School of Medicine, The University of TokyoCutting-edge bio-imaging and detection technologies for drug discovery創薬を志向した最先端生体計測・検出技術

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